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第2話

 大衆居酒屋『熊のねぐら亭』は今日も賑わっている。 「それじゃ、自己紹介はじめま〜す!」  オレンジのライトに照らされた店内では、五人の男女がテーブルを囲んでいた。大皿料理を並べた卓の上にはビールジョッキが置かれており、それぞれの手元には小皿が並べられている。 「はいはい!幹事!男が足りません!」 「あ〜、あと一人、遅れて来るって」  女性陣の賑やかな会話を聞きながら、ギルはビールに口をつける。隣に座る参加者の狐は、騎士団員だった。 「いや、今日来るのってギルさんだったんですね」 「ギルさん?っていうの?そっちの人」  女性の声が割り込んできて、ギルは視線だけを向けた。虎の女性が興味深そうにこちらを見ていて、少したじろぐ。 「そうですよ、騎士団医務官のギルさん。これでも薬のスペシャリストです」 「へ〜!薬?あ、じゃあさ、私の飲んでるサプリがあんだけど、あんま体に合ってなさそうなんだよね。見てくれません?」  差し出されたサプリメントの成分構成表に目を落とす。ギルは息を吐いて、彼女に仕事モードで体調の聞き取りを始め出す。まだ人数が揃ってないとはいえ、これじゃ合コンというより出張医務室だ。 「この成分は君の場合、あまり摂取しない方がいいだろう。それよりも──」  彼女に合ったサプリメントを勧めれば、虎の彼女はにかっと笑う。 「へ〜?めっちゃ助かります!ギルさんって良い人ですね!」  その可愛らしい笑顔にギルの心臓はどくりと騒ぐ。こんな風に誰かと触れ合えることなんて滅多にないから、耐性がないのだ。  彼女を前に固まるギルに、また声がかかる。女性陣が興味を引かれたらしく、ギルたちを輝いた瞳で覗き込んだ。 「え?なになに?何してんの〜?」 「あっずるい!もう話してる!」  一気に騒々しくなった周囲を見回し、呆然と思う。  ──合コンってすごいな。  オメガだという話はもう伝わっているはずだが、なんの抵抗もなく彼女たちは受け入れたようだ。ギルと談笑をしてくれる様子は可愛らしいの一言に尽きる。  隣の騎士団員も、会話に入ってきて和気あいあいとした雰囲気が流れているテーブルに、ふと低い声が投げられる。 「──もしかしてもう始めてらっしゃいますか?すみません、仕事が長引いてしまって……」  全員の視線が、彼へと集められた。途端、女性陣の雰囲気が変わったのを肌で感じる。ガチモード、というのだろうか。闘気が揺らめいてる。 「えっ、珍しい参加者って……──イリスさんだったんですか!?」

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