2 / 3
第2話
大衆居酒屋『熊のねぐら亭』は今日も賑わっている。
「それじゃ、自己紹介はじめま〜す!」
オレンジのライトに照らされた店内では、五人の男女がテーブルを囲んでいた。大皿料理を並べた卓の上にはビールジョッキが置かれており、それぞれの手元には小皿が並べられている。
「はいはい!幹事!男が足りません!」
「あ〜、あと一人、遅れて来るって」
女性陣の賑やかな会話を聞きながら、ギルはビールに口をつける。隣に座る参加者の狐は、騎士団員だった。
「いや、今日来るのってギルさんだったんですね」
「ギルさん?っていうの?そっちの人」
女性の声が割り込んできて、ギルは視線だけを向けた。虎の女性が興味深そうにこちらを見ていて、少したじろぐ。
「そうですよ、騎士団医務官のギルさん。これでも薬のスペシャリストです」
「へ〜!薬?あ、じゃあさ、私の飲んでるサプリがあんだけど、あんま体に合ってなさそうなんだよね。見てくれません?」
差し出されたサプリメントの成分構成表に目を落とす。ギルは息を吐いて、彼女に仕事モードで体調の聞き取りを始め出す。まだ人数が揃ってないとはいえ、これじゃ合コンというより出張医務室だ。
「この成分は君の場合、あまり摂取しない方がいいだろう。それよりも──」
彼女に合ったサプリメントを勧めれば、虎の彼女はにかっと笑う。
「へ〜?めっちゃ助かります!ギルさんって良い人ですね!」
その可愛らしい笑顔にギルの心臓はどくりと騒ぐ。こんな風に誰かと触れ合えることなんて滅多にないから、耐性がないのだ。
彼女を前に固まるギルに、また声がかかる。女性陣が興味を引かれたらしく、ギルたちを輝いた瞳で覗き込んだ。
「え?なになに?何してんの〜?」
「あっずるい!もう話してる!」
一気に騒々しくなった周囲を見回し、呆然と思う。
──合コンってすごいな。
オメガだという話はもう伝わっているはずだが、なんの抵抗もなく彼女たちは受け入れたようだ。ギルと談笑をしてくれる様子は可愛らしいの一言に尽きる。
隣の騎士団員も、会話に入ってきて和気あいあいとした雰囲気が流れているテーブルに、ふと低い声が投げられる。
「──もしかしてもう始めてらっしゃいますか?すみません、仕事が長引いてしまって……」
全員の視線が、彼へと集められた。途端、女性陣の雰囲気が変わったのを肌で感じる。ガチモード、というのだろうか。闘気が揺らめいてる。
「えっ、珍しい参加者って……──イリスさんだったんですか!?」
ともだちにシェアしよう!

