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第6話
宿に着いて、部屋を乱暴に開けるとイリスは丁寧にギルをベッドへ横たえた。
薄暗い室内。ギルではあまりよく見えないが、瞳の光っているイリスはきっとすべて見えている。
ギルを観察するような目で、イリスは優しい声色でもって、ペットボトルを差し出した。
「……水、飲みますか」
水面が微かに揺れている。ゴクリ。ギルの喉が鳴ったが、今はそれよりももっと他に欲しいものがあった。
「っは……い、ぃ……いらな、っ……あ、っ……」
体が熱い。内側から燃えるようだった。軽いとはいえ、ヒートはヒートだ。
イリスがコートを脱ぎ、ベッドへ乗り上げる。たくましい肉体が乗ったことで安物のベッドはぎっ、と音を立てた。
彼が動くだけでフェロモンが漂う。ギルは息を吸うだけで下肢がぐちゃぐちゃになっていくのを感じていた。
「……ギルさん、キスしても?」
「ん……っ、して、くれ……」
困ったように、嬉しそうに眉を下げて笑ったイリスは、ギルの茶色の髪を撫でる。
顔を寄せ、ギルの顔中に口付けが与えられる。彼の少し長い黒髪がさらりと音を立て落ち、二人の色が混じりあった。
あちらこちらへキスを落とすのもいいが、はやく唇にしてほしい。彼の背中へ腕を回して、ギルは吐息で「はやくしろ」と囁いた。
息を呑んだイリスは、ようやく触れるだけのキスを唇へ落とす。薄い皮膚が触れ合った瞬間、ビリッと体にしびれが走る。柔らかくて、少し冷たいそれは何度か重ねられると、ギルの下唇を咥えて舌先で舐めた。
何を求められているのか、経験こそないが本能で察する。
唇を薄く開き、ギルは舌を彼の唇に当てる。するとすぐにぱくりと食べられ、ギルのものを彼の口腔で歓迎するように扱かれはじめた。
「ぅ、んん……っ……ん、む、っう」
甘い唾液と、濃いフェロモンが意識の輪郭を融かしていく。
ギルより温かい体は、ギルを囲い込むように抱きしめ、体重を掛けていた。
ギルの舌の側面をざりざりと擦られ、彼の犬歯を舐めればお返しにと言わんばかりに舌同士を絡めて扱かれる。
熱くて甘くてふわふわする。浮かされるように、ギルはキスに夢中になっていく。
イリスの手のひらが、ギルの胴体をやわく撫でる。シャツを脱がしながら、フェザータッチで脇腹や胸の辺りを五指がくすぐった。
「ふ、ぁう……っ……ん、んん」
とろりと唾液を送り込まれ、飲み込めば彼の手が頭を撫でた。一度唇を離し、ギルは濡れた瞳でイリスを見上げる。ひどくギラついて、興奮しきった獣がギルの痴態を喰らいつくように見つめていた。
「っ……そ、んな……見ないで、くれ……」
「無理なことを言いますね……嫌ですよ。ギルさん、言ったでしょう?無理やり犯すことはしない、って……あなたの反応をすべて見て、きちんとイイことだけをしてあげますから、文句は言わないの」
イリスの手のひらが下腹を撫でた。鼠径部を服の上からたどって下へ向かっていく。スラックスを押し上げているそこを、指先がゆっくりと膨らみに沿ってかり、と引っ掻いた。
「っあ……!」
脳髄でバチッと電気が爆ぜる。
じわりと股間部から愛液が滲んだ気がして、吐息を漏らした。目の前の獣にくすりと笑われ、体は勝手に興奮していく。
「ふふ……まだ、キスしただけですよ」
「う、うるさいな……!言っただろう、バージンだ、って……は、あっ……君、の……さわり、かた、が……いやらしい、んだ……っ」
スラックスごしにそこをすりすりと擦られ、体が震えてしまう。つま先でシーツを蹴り、ギルは噛み殺した甘い吐息をこぼして喘ぐ。
「そろそろ、全部脱がしてさしあげますね」
イリスの舌が、汗の伝う首を舐めた。そこに鼻先を埋め、匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしている。
そういえばこの男、イヌ科の獣人だった。フェロモンを味わうように汗を舐め取り匂いを肺に満たしている。
その合間にも服は脱がされ、スラックスを取り上げられた。靴下と下着のみになって、シャツさえも剥ぎ取られる。
「……ふふっ」
「な、んだ……」
「すごい、濡れてますね?ここ」
イリスの長くしなやかな指先が、濃く染まった下着を、陰茎の形に沿って撫でていく。ぴくぴくとそれが震えた。雄が欲しいと後ろが疼く。
「っ……濡れて、ない……っ!そんな、淫乱みたいに……っは、ぁ、あっ……言うなっ……ん、っう、あ……っ」
「嘘つき」
彼の指が下着の縁をかける。脱がされると思って、腰を浮かせた。
しかし、脱がすのではなく、彼の指は下着のゴムを引くとパッと離してしまう。パチンッ、と音を立てて肌に下着が打ち付けられた。
「んぐっ!」
「シミが広がりましたよ。これでも興奮してないんですか?」
「っ〜〜!?」
かあ、と羞恥に頭が熱くなる。唇が震えて何も言い返す言葉が浮かばなかった。ただイリスを睨みつければ、彼はくつくつと喉奥で笑う。
「素直になってください。これは合意の上での行為なんですから」
「うる、さい……っ」
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