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2章 第2話
「ああ、それと。ギルさん」
びくりと肩がまた跳ねる。もう惑わされない、なんて気持ちで彼を見た。
「──昼、ご一緒する約束でしたよね。待っているので、食堂でまた会いましょう」
「……え?」
「ギルさんから誘っていただけたことが嬉しすぎて、これから昼まで頑張れそうです。じゃあ、私はこれで」
困惑したギルにも、気づいているくせにこりと穏やかそうに微笑み、彼は退出して行ってしまった。ギルが「そんな約束はしていない」と返す暇もなく。
残されたギルは、補佐官からの『いつのまにそんなに仲良くなったんだ』という好奇の視線に舌打ちをする。あの野郎、やりやがった!
時計が十一時の鐘を鳴らす。昼休憩まではあと一時間。どうにかして弁解をしようにも、話はとうに聴衆付きで進んでいる。
仕事が多いと断ろうにもこの補佐官はならばとギルの仕事量を調整してくるだろう。そうして感想を事細かに聞かれることはもうわかりきっている。
ため息をついた。いったいどうしてこんなことに。僕たちはそもそも昼を一緒にするなんて仲でもなければそんな話をしたこともないだろう。
「感想、楽しみしています。ハーランド医務官」
「君に言うと一日もたたずにこの騎士団中にすべてが知れ渡るだろう……」
「ええ、もちろん。娯楽は共有しないともったいないので」
「……上司の交友関係を娯楽というんじゃない」
補佐官はにこりと、それはもう面白がっていることを隠そうともしない笑みを浮かべた。それはそうだ。
あの、人当たりはいいくせ特定のつるむ相手をつくらないイリスが応えた、という構図になっているのだ。
ギルがどうやって口説き落としたのかとか、何を話していたかとか。聞かれることは目に見えている。
こうして、ギルは不本意ながら、イリスと昼を一緒にさせられることになったのだった。
◆
──人々の喧騒で賑わう、ハーヴェイ騎士団の食堂内にて。
「おい、あそこ……」
「うわ、本当だ」
普段ならば様々な騎士団関係者たちが一目散に昼食をとるその場所で、注目を集める一つのテーブルがあった。
「ふふ、ギルさんは魚定食にしたんですね?私はいつも肉一択です」
「……」
「いやあ、それにしても。ギルさんからあんなに熱心に口説かれるなんて、驚きましたよ。今日はありがとうございます」
「……」
にこにこと笑みを絶やさず、けれどこのテーブルを遠巻きに注目している聴衆に聞こえるよう、はっきりと通る声で喋るこの性格最悪狼に、ギルは頭を抱えたくなるのをぐっとこらえる。
イリスは黙り込んでいるギルにも構わず、大盛りの肉定食をパクパクと胃袋に納めていた。
「ここの魚はまだ食べたことがないんですよ。もうずっと勤務しているのに、おかしなものですよね。あ、ギルさん。一口くれるんですか?嬉しいな」
「……」
「ほら、口を開けていますから。ここへ」
「……」
「ギルさん?私とおしゃべりをするのが楽しすぎて食事の手も止まってしまっていますね」
「……、……──イリス」
喧騒の中、ギルの声はイリスにしか届いていない。イリスが心底嬉しそうに笑う。途端に周囲からざわめきが聞こえた。
「え?私が可愛くて食事どころじゃない、ですか?」
周囲が息を呑む音が聞こえた。がたん、ギルがテーブルに手をつく。イリスは笑っていた。
「イリス!君はほんっとうに──」
「かわいい、ですか?めったに言われないんですけど、ギルさんは面白い人ですね」
「っ~~~~~!!イリス!!」
「はい。ギルさん。……──あまり騒ぐとさらにさまざまな憶測が飛び交うことでしょうね?」
小声でささやかれた内容に、ギルはぐっと思わず口ごもる。その隙にイリスはギルの手を取ると、そっとスプーンに戻していて。何をしてるんだと問う暇もなく、彼は小首をかしげて「あ~ん」とからかうように自身の唇を指でとん、と叩いた。
「──ハーランド医務官、すげぇ……」
「あのベイカー副隊長にあんなこと……」
「ッ~~~~~~!!」
聞こえてきた呟きに、ギルはあえなく撃沈したのだった。
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