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2章 第9話

 イリスが歯を食いしばって息を吐き出した。胎内に納められている彼の剛直がビクリと震えて膨張する。 「あっ、あ、ああっ……!イ、っ……て、る……!!おっ、きく、するなぁっ……!!」 「無茶を言う……っ、ギルさん……まだ、いいですよね……」  脚を抱え直された。ずるりと引き抜かれる。質量が足りずぎゅうっと締まった内部を、前立腺も巻き込んでイリスが強い力でこじ開ける。 「ぁが……ッ!!は、ッひ……!」  とっさに耐えきれず、ギルは手を伸ばした。自分を食らう獣へ、その首筋に。助けを求めるように腕を回し、イリスの狼耳をそうっと撫ぜる。  狼は息を詰めた。ギルの手に擦り寄ると、ドロドロとした光の濁った瞳を獲物へ向ける。愛おしくてたまらないとばかりに口付けられた。 「んうッ!?」  ふわふわと浮かされた頭は、急なキスにも嬉しいとだけしか考えられなくなっていて。アルファのフェロモンに包まれ、体を抱きしめられ、アルファと肌を合わせながらキスをしている。  吐き気をもよおすほどの甘い匂いはイリスのフェロモンだろう。甘ったるくてツンとする鉄錆の匂い。不思議と体に馴染む香り。 (……ぁ、きもち……い、ぃ……)  舌を絡め、ぢゅうっと吸われる。たったそれだけで下肢は強く震えた。 「っ……ふ」  イリスの手はギルの腰を掴む。固定するように押さえつけると、そのまま雄が絶頂へ行くためのがむしゃらな動きでギルを蹂躙し始めた。  呼吸音が浅くなってる。イリスの状態はおかしくなっているわけではなさそうだ。  発情中のアルファがオメガを貪っているのに、イリスはギルに対して酷いことをしていなかった。  話の中や、世間のニュースで聞くような凶暴な生き物。それがアルファだと思っていた。なのに、イリスは違っている。 「っは、はぁッ……ギルさんッ……ギルさんギルさんッ!かわいい……ああ、すきです、すき……あなたが、ほしいんです……っ、ギル、さん」  必死になってギルを逃すまいとしているこの狼が、何故だかとても可愛らしいモノに見えた。  だからギルは、彼の腰に脚を回すとイリスの首元に噛み付いたのだ。 「ぐッ……!?」  歯を立てたというのに硬い。皮膚が硬いのだろう。歯型も付けられなかった。イリスはビクリと震えると、ギルの肩を押さえつけた。 「何……するんですか……」 「いや……ッは、ぁあ……ッ……愛情、ひょ、げんっ……だ、ッあぐ!!」 「アルファに噛み付くなんて……あなたのことはどうとでも出来るんですよ……なのに、こんな挑発的なことをするのは……っは、いささか、問題があるかと……」  おかしなアルファだ。  ギルは低く喉を鳴らして笑う。イリスの頭を撫で、耳元には口を寄せられないから、せめていちばん近い距離で。 「……しないくせに」  ビクッ、とイリスの肩が跳ねる。その頭部の丸みを慈しむように撫でながら、腰をゆらりと揺らしてやった。 「僕のこと、大切なんだろう。そんなイリスが、僕を手酷く扱うはずがない。お前はそんな男じゃない。わかってるよ……イリス、気を使ってくれてることぐらい」  ナカのけいれんが激しい。もうそろそろイきそうだった。イリスもイって、満足してくれないかな。足腰がいい加減痛んできた。 「ッ……ギルさん……」  ペロリと彼の舌がギルのうなじを舐める。全身の血が沸騰したように沸き立つ。心臓が痛い。興奮と緊張と、果てのない高揚に突き動かされてギルは身体を震わせた。 「……噛みは、しませんよ。ただ……あなたの、ここ……私に、いつか……くださいませんか?」  熱に浮かされた声でイリスが呟く。うなじを舌で何度も撫ぜながら。予約したいと言っている。  この、パーフェクトなアルファが、ギルみたいな平凡なオメガを。  有り得ない、と思うと同時に、この男にならすべてを明け渡したい、と。そう思った。ギルは体から力を抜く。恭順の証だ。お前になら、すべてを差し出せると。そう伝えるため。 「……一生を縛る相手が僕でいいのか」 「あなたしか有り得ません」 「……歳上だし、モテないし、特に取り柄もないぞ」 「あなたが誰にも触れられていないのであればそれ以上の喜びなどない」 「……可愛げもないから、飽きるかも」 「ギルさんはじゅうぶんに可愛らしい人ですよ」  イリスがあまりにも断言するものだから。心の凍てついていた箇所がゆっくりと溶けていく気がした。  ふ、と笑ってギルはイリスの鼻先に口付ける。 「どうやら、君に捕まってしまったらしいな。……君が好き、だ。狩り上手のオオカミさん?」  てっきり返事があると思っていた。 「……ッ」  なのにイリスは何も言わず、目を逸らしてギルの身体を掴むだけだ。吐息がギルの耳元で小さく揺れた。 「……」  どうして?聞くことはできなかった。  再開された激しい抽挿に、ギルは何を考える暇もなく快楽に溺れてしまったから。  答えが欲しかった。「私もですよ」と。それだけでいい。欲張ってしまえば「愛しています」の一言も添えて欲しかった。 「あッ!は、んぐ、ぅううッッ!!や、ぁ、ぁ、イくッ……イリス、いり、すっ……ッああ!」  揺さぶられるまま、イリスに縋り付く。獣はギルを壊さぬように手加減をしながら彼の思うがままに動いた。  なあ、イリス。体だけじゃなくて、言葉でも、愛してるってもっと教えてくれよ。  すべての思考は快感に流され、ついぞ伝えることはできなかった。

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