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第3話 刻まれる印

 逃げる間もなく首筋を咥えられる。舌が頸動脈を辿るように舐め、耳の穴へと差し込まれた。垂れた唾液が頬を流れ、凛士の開きかけた口端をなぞった。  その唾液の跡を辿るように、アルヴァルドの指が凛士の唇に触れた。強引に指を押し込まれ、上顎を擦られる。鋭い爪先が舌を掠め、喉にわずかな鉄の味が広がった。 「……っ……ぐっ……」  凛士はもがいたが、アルヴァルドは手を止めず、体重をかけてのしかかってきた。  アルヴァルドの足が凛士の下腹部に触れた途端、体が跳ね、まるでそれを待っていたかのように奥が疼き出した。 「なっ……なんで……っ」  これまで感じたことのない疼きに凛士は困惑した。それと同時に、脳裏にレオニスの言葉と道具の数々が浮かんだ。薬でも盛られたのか。だがそうだとしても、その疼きは凛士にとって、あってはならないことだった。  しかしそれは、意識した途端に暴れ出し、凛士の体を支配しようとした。  何の音も立てず、服が脱がされる。  剥き出しになったそこは、足で何度か擦られただけで簡単に硬くなった。それを見たアルヴァルドが口端を吊り上げる。  片足を掴まれ、いとも簡単にうつ伏せにされた。 「……あっ……」  抵抗できない凛士の背に、アルヴァルドが体を重ねた。  両足を広げられ、その拍子に奥から、おそらく準備の際に塗り込まれていた液体がとろりと流れ出す。  指がそこに触れ、柔らかさを確認するように何度かなぞられる。それが離れ、凛士が息を吐く前に、今度はもっと熱いものが押し込まれた。 「あぁっ!」  思わず声が漏れた。逃げようとする腰を強引に掴まれ、さらに奥へと、雄の楔を打ち付けられる。 「あっ……や、やめっ……ああっ……っ!」  拒絶の声とは反対に、体は熱を欲していた。  もっと奥、疼くそこを擦って欲しい。  打ち付けられるたびに前が跳ね、先走りを垂らす。自分から腰を振っていることすら、凛士は気づかなかった。 「はぁっ……あっ……も、いく……っ」  前に熱が集中する。  直接触れてもいないのに、限界が近い。 「あっ、いく……あっ……あ……――っ!」  体を震わせ、凛士は射精した。白い液体が寝具を濡らす。  短く呼吸を繰り返した凛士は、直後また奥を突かれ、思わず叫んだ。 「やっ、もう……あっ……ああ……っ」  アルヴァルドは容赦なく凛士に熱を叩きつけた。  より激しく、奥へと。 「あぁ……っ……はぁっ……あっ、あっ……」  凛士の声から拒絶が消え、甘い響きだけが残った。 「あっ、あ、あぁっ……んっ……はぁ、あぁん……」  アルヴァルドの腰の動きが激しくなる。  凛士はもう何度精を吐き出したかもわからなかった。  アルヴァルドが小さく呻き、同時に、奥に熱いものが注がれた。  腰を掴んでいた手が離れ、凛士は力なく倒れ込んだ。  指の一本も動かせない。意識を繋いでいる糸は、今にも切れそうだった。  朦朧とする中で突きつけられたのは、行為そのものよりも、それを受け入れて感じてしまった、自分自身だった。 「下手と言った割には、随分と感じていたようだな」  意識を手放す直前、アルヴァルドの低い声が聞こえた気がした。  ◇ ◇ ◇  目を覚ました直後、凛士は自分の体が思うように動かないことを知った。  じっとしているだけで、身体の奥に残された熱が、遅れて主張してくる。  夢ではない、と理解するのに時間はかからなかった。  視線だけを動かす。その端に、アルヴァルドの姿があった。  身なりを整え、寝台に腰を下ろしている。その表情には熱や達成感といったものは残滓すら残っておらず、まるで最初からここにはいなかったとでもいうような態度だった。 「失礼いたします」  形式ばった声とともに、すぐ横で人影が動いた。  黒頭巾を被った従者らしき男が、湯で湿らせた布で凛士の裸体を拭い始める。首から肩、腕、腹のあたりまで拭い、布を変えて今度は足のつま先、ふくらはぎ、そして腿の付け根まで。  従者の手つきには労りなどなく、ただ淡々と機械的で、凛士に恥じる間も拒む余地すら与えなかった。そうして従者は最初の一言以外は何も言わず全身を拭い終えると、最後にあの器具――体を準備させられた時に使われたあれを、手に取った。 「っ……」  逃げる間もなく、そこに差し込まれる。アルヴァルドに散々突かれたそこは、器具をたやすく受け入れた。 「蓋をして、精を馴染ませます」  従者は感情のこもっていない声でそう言うと、深く一礼して離れた。入れ替わるようにして別の黒頭巾の男が現れ、また淡々と、今度は凛士の体に香油のようなものを塗り広げていく。  寝台が揺れた。立ち上がったアルヴァルドの背中が見える。  アルヴァルドは凛士に目線を遣ることなく、歩き出した。  ――置いていくのか。  凛士は咄嗟にそう思い、思ってしまったことに顔をしかめた。  寝台を去ったアルヴァルドが、天蓋の向こうで不意に足を止めた。 「……名は?」  凛士は、喉が詰まったように息を呑んだ。 (俺は、名前すら認識されていない相手に、抱かれたのか)  凛士さえ知らなかった部分を暴き、奪っておきながら――今更、名前を知りたいと? 「……魂の呼び名は『リンジ』と。召喚の際に記されておりました」  いつからそこにいたのか、答えられない凛士に代わり、レオニスが告げた。 「リンジ、か」  アルヴァルドの声には、なんの抑揚もない。  その声の平坦さに、知りたかったのではなく便宜上聞いただけなのだと、凛士は悟った。  アルヴァルドが去り、扉の閉まる音が冷たく響いた。 「精が馴染み次第、定着の湯へお連れします」  従者の説明が無性に腹立たしく、凛士は拳を作ろうとして、うまく動かない手で寝具を力なく叩いた。

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