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第5話 翳りの笑み
「方法があるのか!?」
「ええ、これを」
男はそう言うと、身につけていた首飾りを外して凛士に差し出した。
「これを持って、紋章の上に立てば戻れます」
「それだけ? 紋章って……召喚された時に見たあれか?」
「ええ、簡単でしょう?」
簡単。いや、簡単すぎる。
本当に、それだけで戻れるのか。
「な、なんか制約とかあるのか? 代償に何か取られるとか……」
「いいえ何も」
男は首を横に振ったが、凛士はまだ信じられなかった。
「てか、それ大事なモンだろ。俺が貰っていいのかよ」
「確かにこれは、あの方からの大切な贈り物。けれど、僕には必要のない物ですから」
男の言葉には妙な含みがあった。凛士は一瞬戸惑ったが、強引に押し付けられ、受け取った。
「あ、あのさ――」
「ああほら、そろそろ誰か来ますよ。早く行きなさい」
凛士は咄嗟に振り向いた。人影は見えないが、男の言うように、いつ彼らが現れるかわからない。
「紋章へは、それが導いてくれますよ」
「けどやっぱり俺――」
「ああ! 追手の気配がする! 僕が時間を稼ぎますから、急いで!」
男が大仰な態度で小さく叫ぶ。
弾かれるように、凛士はその場を離れた。
凛士の背中を見送ったあと、男は、誰も来ない虚空を見つめながら、うっとりとした口調で囁いた。
「……ああ、これできっと、熱を持て余したあの方が、僕のところに訪れる」
◇ ◇ ◇
男の屋敷を離れてから、はじめに目を覚ました部屋――紋章の間へ至るまでの道は、驚くほど静かだった。
人影も、呼び止める声もない。
まるで逃走する凛士を見守ってでもいるようだった。
男が言っていたように、首飾りについた柘榴石がうっすらと光の道筋を示し、迷うことなく、誰にも邪魔されることもなく、凛士は目的の部屋に辿り着いた。
「ここにも、誰もいない……」
召喚の時以外は誰も立ち入らないのか、無人の広間は静寂に満ちていて、あの時感じていた圧も、気配も、ここにはない。
広間の中央、自然光に照らされた紋章へと、凛士は慎重に近づいた。
(帰れる……)
凛士は首飾りを握りしめた。
ふと、あの金色の獰猛な眼差しが、脳裏をよぎった。
(――二度と、会えないのか)
凛士は即座に首を振った。
会わない、会うわけがない。
もう二度と、あんな男に――。
凛士は紋章の上に飛び乗った。
直後に光が走り、視界が白く塗り潰されていった。
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