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第7話 断絶の印
「お前はつくづく興味深いな」
アルヴァルドが立っていた。金色の瞳が、凛士を見下ろしている。
「お、お前、なんでここに……」
「逃げたウサギの味を、確かめにきた」
(逃げても追わないんじゃねーのかよっ!)
心の中で元ツガイ候補の男に悪態をつく。まるで凛士の心を見透かしたかのように、アルヴァルドが口端に笑みを浮かべた。
その手に、いつの間に取ったのか、凛士が懐に入れていた柘榴石の首飾りがあった。凛士が何か言うよりも早く、それはアルヴァルドの手の上で、砂のように砕け散った。
「これは断絶の印――お前が使うのはまだ早いな」
起きあがろうとした凛士の体が、アルヴァルドの手でベッドに押し戻される。両手を掴まれ、ベッドに縫い付けられた。腰にアルヴァルドの体重がかかり、その重さと体温に、凛士の奥がずくりと反応した。
「や、やめ……っ」
逃げようともがく凛士は、不意に腹のあたりに刺すような熱を感じた。痛みはないが、熱いなにかが腹の内側から這い上がっていく。熱の行方を思わず目で追うと、それに気づいたアルヴァルドが凛士の服を捲り上げた。
「な……これ……」
凛士の肌に、あの紋章によく似たものが浮かび上がっていた。目を細めたアルヴァルドが、指先でそれをゆっくりとなぞる。
「ようやく顕れたか」
アルヴァルドの低い声と同時に、凛士の体が一瞬だけ浮いた。
次の瞬間、寝具に沈み込む。先程までの使い慣れた安ホテルとは違う、けれど全身に刻み込まれた感触。二人分の体重が一度にかかった衝撃で、天蓋の薄布がはらりと揺れた。
「お前が、俺のツガイだ」
声とともに、アルヴァルドが喉奥で獣のように唸った。
凛士は瞬時に悟った。俺は宿ったのだ、と。だからアルヴァルドは追ってきた。熊が獲物に執着するように、自分のモノとなった器を、取り戻しにきたのだ。
「――陛下」
薄布の向こうから声がかかった。
「刻印が定着した直後でございます。あまりご負担をかけるのはよろしくないかと」
レオニスの声だ。凛士の唇に噛みつこうとしていたアルヴァルドが動きを止め、舌打ちをする。
「いつまでだ」
「二回目の月が昇る頃なら」
アルヴァルドが短く息を吐き、凛士を見た。
顔と首筋に一瞬だけ視線を遣り、すぐに逸らす。
そうしてもう一度舌打ちをしてから、アルヴァルドは凛士の上からどいた。
アルヴァルドは凛士に目もくれず、早足で部屋を出ていった。遠くでレオニスに何かを命じる声が聞こえたが、凛士には届かない。
ほどなくして足音が近づいてきた。
「リンジ様。陛下の伴侶になられましたこと、お喜び申し上げます」
薄布の向こうで、レオニスが恭しく一礼するのが見えた。
「専属の従者をおつけいたします。どのような些事でも、なんなりとお命じください」
レオニスの横に、長身の男が姿を見せた。
「ヴァレトと申します」
凛士は返事をせず、男たちに背を向けた。
ツガイになってしまった事実、それに付随する感情の波から目を逸らしたかったが、心に渦巻くそれは、凛士を解放してはくれなかった。
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