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第11話 選択の刻

 部屋を出てそんなに長くは走っていないのに、凛士は立ち止まった。熱がまた凛士の体を疼かせ、歩くこともままならなくなってしまったからだ。 「っ……んっ……」  凛士は壁にもたれかかり、座り込んだ。  刻印の部分が熱い。下腹部が脈打ち、勃起したそれは解放されないことを痛みで訴えている。扱いて吐き出してしまいたい欲望を、凛士は必死に留めた。  ふと肩に手が置かれ、凛士は反射的に顔をあげた。 「ああ、やっぱり」  元ツガイ候補のあの男が、凛士を見て微笑んだ。 「具合が悪そうですね」  男の手から逃れるように、凛士は身を動かした。今は誰にも触られたくない。ほんの少しの刺激で、自我が崩壊されそうだった。  荒い呼吸を繰り返す凛士を見て、男は何を思ったのか。  彼は凛士の腕を掴むと、強い力で体ごと引き上げた。暴れる凛士を強引に引っ張り、近くの部屋へと連れ込む。  倉庫らしきその部屋で、男は凛士を突き飛ばすと、仰向けに転がった凛士の前で、自分の服に手をかけた。 「なっ……にを……」 「君、僕みたいな人、好みでしょう?」  一枚一枚服を脱ぎながら、男が凛士を舐るように見つめる。最後の一枚を脱ぎ捨てたあと、男は凛士の上に四つん這いになった。 「勃っているそれ、僕のここに挿れて」  そう言いながら、男が自身の陰部に指を這わす。ぐちゅぐちゅと出し入れする音が聞こえ、凛士は耳を塞いだ。 「はぁっ、あっ……。僕は……毎日『準備』してるから……すぐに……できるよ」  自身の指に身悶えながら、男が囁く。 「ほら……っ……早く、きて……あっ……君の、精を……貰えば、僕にもきっと……刻印が出る……」  この印が、移るとでもいうのか。  声にならない凛士の言葉に、男はうっとりとした顔で答えた。 「きっと……そうなるはずだ。だって、君に印が出て……この僕に出ないなんて……あり得ない」  妄信の眼差しでつぶやいた男が、「それに」と凛士の下腹部を見る。 「君も……それを挿れたいって……思っているよね?」  男が凛士の服越しに、指を抜いたばかりのそこを擦り付け、腰を振った。  凛士のものか、男のそこから流れ出たものか、服に染みが広がっていく。 「やめっ……っ……」  男の動きに合わせて腰を動かしそうになり、凛士は必死に耐えた。彼の言うように勃起したモノを今すぐ突っ込みたい。何度も突き上げて、掻き回して、熱を解放したい。 「……君の精を僕に注いで」  男が凛士の首筋を舐める。  ふと漂う薔薇の香りに、凛士は反射的に男を突き飛ばした。  この熱じゃない。  俺が欲しいのは、欲しているのは――。  男の表情が変わった。  目を見開き、焦点の合わない狂人の眼差しで凛士をうつ伏せに押し倒す。  強引に凛士の下着を剥ぎ取ると、自身のいきり勃ったモノを双丘に擦り付けた。 「印をくれないなら、あの方と同じ景色を僕に見せてよ」  男は恍惚とした表情で囁き、凛士の奥に指を這わせた。 「……やめろっ……あっ……――」  指でそこをぐいと左右に広げられる。ぬとりとした熱いモノが肌に触れ、凛士の背中が怖気立った。  その瞬間、獣の咆哮が轟いた。地を震わせるほどの鳴動と共に暴風が吹き荒れ、男の体を攫うと壁に叩きつけた。口から血を吐いた男が何かを言いかけたが、声を出す間もなく暴風と共に掻き消えた。  途端に静寂が落ちる。  凛士は腕で顔を覆い、深く息を吐いた。  重い足音が近づき、凛士の横で止まった。  腰を落とす気配と同時に、体に布のような物がふわりと掛かる。見なくても、誰がいるのか凛士にはわかった。 「……遅いんだよ」  責めるように言うと、傍らでアルヴァルドがふっと笑った。  抱き上げられる。ずっと欲していた匂いに包まれ、凛士は胸に顔を寄せた。  その時、複数の足音が近づき、彼らからやや離れたところで止まった。  レオニスを先頭に男たちが立っている。ヴァレトの姿はなかった。 「陛下……」  レオニスの声は震えていた。 「我はお前に命じたはずだ」  低い、静かだが唸るような声が響く。  抱き上げられている凛士も背筋が凍りそうになるほど、冷たい声音だった。 「リンジを我と同等に扱い、我以外の誰にも、髪の毛一本たりとも、触れさせてはならぬと」  レオニスは返す言葉を失い、平伏した。  耳は頭にぺたりと垂れ、今にも失神してしまいそうなその姿に、凛士は可哀想になりアルヴァルドの服を引っ張った。  凛士の気持ちを察したのか、アルヴァルドは手を振ってレオニスたちを下がらせた。  凛士がほっと息を吐いた次の瞬間、周囲の景色が変わり、あの薄暗い寝所に着いた。寝台に凛士を寝かせたアルヴァルドが、凛士の髪を撫で、額に唇を落とす。 「レオニスにはああ言ったが――」  唇を離したあと、アルヴァルドが言った。 「興味がないからと放置していた、我の怠慢が招いた失態だ」  間近から凛士を見つめるアルヴァルドの瞳には、後悔の念があった。 「すまなかった」  凛士は、アルヴァルドを呆然と見つめた。 「……あんた、謝ることできたんだ」  思ったことを口に出す。そうしてから、急におかしくなり笑った。何がおかしいのかと、不服そうな表情を浮かべるアルヴァルドの姿すら面白くて、凛士はしばらく笑った。

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