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第7話 タブレット

 その夜、颯太はまだ眠ったままだ。 どれだけ弱っているんだよ……。 これじゃ点滴も外せない。 一度は導尿した。 でも留置カテーテルを入れるとトイレに行けなくなるから、また颯太が困った状態になる。 今の彼は起き上がることすら難しいし、点滴をしている分、尿意も近くなる。 かといって、このままでは排便の兆候もない。 お腹が弱って眠り続けているんだ。 ……もう限界だ。 病院なら三日出なかったら、もう“決着”をつけるところだ。 肩を軽く叩いた。 うっすらと目を開けたが、まだぼんやりしている。 「颯太ね。今の状態で排便できる? 無理なら、楽にしてあげるよ」 ぼーっと天井を見つめていたが、だんだん目尻に涙が溜まってきた。 泣かせたいわけじゃない。ティシュで目元を拭いてあげた。 「本当は身体が弱ってるから、留置カテーテルを入れてトイレに行かなくて済むようにしてあげたいんだけど…… それだと出しにくいでしょう? でも今日で五日くらい出てないよね? 身体に悪いから、今から決着をつけよう」 掛け布団で顔を隠し、しばらくしてから小さく頷いた。 なるべく出しやすいように手伝って、トイレへ連れて行く。 「苦しかったらドアを叩いてね」 ドアのすぐそばで待機した。 ……10分経っても出てこない。 倒れてないか? 「颯太、大丈夫? 開けるよ」 そっと開けると、後ろにもたれかかったまま泣いていた。 「どうした? 苦しい? 出ない?」 頷く。 そこから二人で格闘すること30分。 なんとか無事に終わった。ふう……。 普通の入院患者みたいに、三日目で決着つけるべきだった。 甘い同情心はやめよう。 今度から冷酷な医者になるぞ……。 颯太は布団を頭からかぶって泣いているようだった。 疲れ切ってしまったんだろう。 甘いものでも飲ませるか。 「颯太、ココアでも飲む?」 微かに頷いた。 「じゃあ、作ってくるね」 温かいココアに、チョコレートも溶かして入れた。 絶対おいしい。水も一緒に持って来た。 「颯太、できたよ。甘くしたから飲んで」 泣いていたことには気づかないふりをして、上半身を起こし、背中に枕を入れてあげた。 少しずつココアを飲んでいる。よかった。 ……そうだ、忘れてた。タブレットだ! 玄関に置きっぱなしだった箱を急いで取ってきた。 「颯太、これプレゼントだよ」 タブレットを見せると、ぱっと嬉しそうな表情で俺を見つめた。 「うれしい?」 まるで押し売りみたいだな。 でも、笑顔で何度も頷いてくれた。 タブレットを充電器につなぐ。 「Wi-Fiにつなぐから待っててね」 ルーターの番号とパスワードを写真に撮ってきて、携帯を渡す。 「これが番号とパスワード。 ついでに俺のLINEも登録してね」 颯太の携帯はうちの充電器とサイズが合う。 タブレットと一緒に充電につないだ。 見ていると――早い。 思わず見とれてしまった。 え? 何このタイピング速度。 「颯太、打つのめちゃくちゃ早いね。すごいよ!」 ニヤッと笑った。 ふふ、俺なんか全然かなわない。 そうか……颯太はパソコンも得意なんだろうな。 きっとそうだ。 よし、これでコミュニケーションはばっちりだ。

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