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第8話 進展

タブレットを手にしてからというもの、颯太は人が変わったように打ち続けていた。 あれほどぼんやりして寝てばかりだったのに……。 この反動が少し怖い。 「颯太、何か調べごとしてるの?」 すぐに入力を始め、俺の携帯にメールが届いた。 <舞台を逃げ出してしまったので、その後がどうなったかと調べていました> 「ふ〜ん、そうなんだ。颯太は、俺が思ってるより精神力が強いのかもしれないね」 颯太は少し照れて、ほほ笑んだ。 「普通ならね、今は絶対に調べたりしないんだよ。一生黙ってる人だって、きっといる。 だから颯太は強いよ」 颯太は意外そうな表情で、じっと俺を見つめていた。 「実はさ、ぶっちゃけ本当のことを言うね。 颯太を見つけたのは、颯太のコンサートを見た帰りだったんだよ。 でも路地が暗かったから、最初は颯太だって気づかなかった。 お酒の匂いもしなかったから、具合が悪いんだと思って…… 夜だし、放っておけなくて連れて帰ったんだ。俺が医者だからさ」 颯太は”ええ……?”という顔で聞いていた。 「それでベッドに寝かせて、改めて顔を見たら颯太でさ。 公演が終わってすぐ、あの路地で吐いてたら普通は気づくよね? 本来なら事務所の車でホテルか自宅に帰るはずだろ? それが一人であそこにいたってことは……訳ありだってことだよ。 だから、身体が戻るまで様子を見ようと思ったんだ」 少し間を置いて続けた。 「ただ、翌日ちょっと心配なことがあって……悪いけど財布を見せてもらったんだ。 そこで18歳だと知って、本当にほっとしたよ。 下手すれば未成年誘拐って言われてもおかしくないからさ。 でもあの学生証、俺と同じ大学で……ちょっと嬉しかった」 颯太は横を向いて、ふふふと笑った。 すぐにメールが届く。 <同じ大学でも偏差値が全然違う> 思わず吹き出しそうになった。 「うちはね、佐久間総合病院を祖父の代からやってるんだ。 俺はそこの院長。父が経営者で理事。 次男は内科医で、妹は耳鼻咽喉科の専攻医。 もう小さい頃から医者になるように育てられてさ。 特に俺は長男だから、毎日家庭教師が住み込みで……、 強制的に勉強ばっかりだったよ。俺って偉いと思わない?」 颯太はふふっと笑った。 その笑顔がかわいい。またメールが来た。 <俺は幼稚園からあの学校だから、そんなに勉強はしていないと思う> 「ふ〜ん、そうなんだ。お坊ちゃんなのかな?」 その瞬間、颯太の表情が沈み、悲しそうな顔になった。 ……あ、そこか。 何かあるんだな。 「颯太ね。俺は精神科医だから、もし患者だったら、ゆっくり何年もかけて、 少しずつトラウマから離れていけるように治療するんだよ。 でも、颯太の場合は……ちょっと違う気がする」 颯太は驚いたように俺を見た。 「直前まで、あんなに美しい声が出ていた。 でも逃げ出したことで、今まで耐えていたものがプツンと切れて……、 そのままパニックになって声が出なくなった。 今の状態は、心が疲れ切っているサインなんだと思う。 だからね、ゆっくりでいい。 焦らなくていい。 きっと、また声は戻るよ」 颯太の目から涙が溢れてこぼれた。 ベッドのそばに行き、そっと抱きしめた。

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