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第9話 最初の一歩
「颯太ね。今、心の中で悩んでることがいっぱいあるでしょう?
でも、ひとつだけでも簡単に解決できることをやってみない?」
< え?なんですか?>
「大学を休学すること。とりあえず一年、休学手続きをするといいよ。
今のままじゃ通学はできないでしょう?俺も調べたんだ。
学生ポータルサイトから休学届が出せるから、まずそれを書いてサインしてほしい。
それをプリントしてくれればいい。
で、うちの顧問弁護士の山川先生っていう、すごく頼りになる人がいる。
その休学届と、俺が書いた診断書、代理人届を持って、直接大学に行ってもらうよ。」
少し間を置いて続ける。
「今の保護者が誰かは知らないけど、絶対に知らせないようにしてもらう。
大学にはね、年に何人か“保護者が加害者”ってケースがあるらしいんだ。
かわいそうだけどね……。
だからこそ、大学は本人の気持ちを一番に考えてくれる。
絶対に保護者には連絡しない。ここにいることも知られない。
どうかな?これでひとつは解決するよ」
颯太はしばらく黙って考え込んでいた。
俺はその答えを、ただ静かに待った。
やがてメールが届く。
<俺、今弁護士に払うお金がないです。どうしましょう?>
思わず笑ってしまった。
「そんなこと?
君は一銭も払わなくていいんだよ。
顧問弁護士には、仕事があろうがなかろうが、病院として一定の謝礼を払ってる。
だから君がお金の心配をする必要はないんだ」
<じゃあ、お言葉に甘えてもいいんですか?>
「うん、いいよ。じゃあ、そうしようか?」
<ありがたいです。お願いします。ただ保護者には……15歳で音楽事務所に入った時から、事務所の社長になってるので……知られたくないんです>
「多分そうだろうと思ってたよ。大丈夫だから、心配しないで。
じゃあ颯太、休学届をプリントしてくれる?
あー待って、俺のメールにファイルを添付してもいいよ。俺がプリントするよ。
弁護士には明日お願いするから、
もしかしたら颯太に会いたいって言うかもしれないけど……大丈夫?」
<はい、それは大丈夫です>
翌日、俺は院長室から山川先生に連絡した。
すぐに来てくれることになった。
事情を話すと、やはり“本人の意思確認”が一番大事だということで、
直接会って話したいとのことだった。
颯太にメールで、午後2時に山川先生と帰宅すると伝える。
診断書はすでに書き終えていた。
颯太が安心できるように、診断書のコピーも用意しておいた。
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