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第10話 山川弁護士

 山川弁護士と一緒に自宅へ戻った。 大体の事情はすでに話しておいたが、どうも先生は釈然としていない様子だった。 何か言いたいことがあるらしい。 それでも「お引き受けします」と言ってくれたので、お願いすることにした。 帰宅すると、颯太がちゃんと着替えていた上に、お茶の支度までして出してくれた。 驚いた。 「颯太、こちらが弁護士の山川先生だよ」 颯太はうんと頷き、深くお辞儀をした。 「初めまして、颯太君だね。お話は佐久間院長から伺っています。 少し話を聞けるかな?」 「先生、声が出ないので、こちらが聞けばメールで答えてくれます」 俺は携帯を渡し、LINEでやり取りしてもらうことにした。 「君は今、ここで佐久間院長の医療保護下にある。間違いないですね?」 ササッとメールを打って送信してくれた。早い。 <はい、間違いないです。お世話になっています> 「大学を休学したいという意思で間違いないですか?」 <はい、間違いないです。声も出ず、居場所も知られたくありません。 世間でも騒がれているので、知られたら無理やり連れ戻されます> 「分かりました。意思確認はこれで十分です。 大学には休学届を提出しますし、保護者には絶対に連絡しないよう念押しして、確約書にもサインをもらってきます。安心してください」 <はい、ありがとうございます> 「あとね……院長。颯太君に少し話したいことがあるのですが、よろしいですか?」 やはり何か言いたいことがあるらしい。 「はい、 ああ……颯太はどうかな? いい?」 颯太は不安げに俺たちを見比べ、 <はい、何でしょうか?>と返してきた。 「君は15歳の時から音楽事務所に入り、保護者がその社長なんですね?」 <はい、そうです> 「15歳といえば未成年です。どんな契約書を交わしていようと、今の状態がこれほど酷いなら、契約は簡単に解除できます。 会いたくないなら、会わなくていい。 そのために私がいます。院長の診断書もある。 何も怖がる必要はありません。 裁判になっても、あなたは何も悪くない。必ず勝てます」 颯太の肩が小さく震えた。 山川先生は続ける。 「もちろん、今すぐ決めなくてもいい。 治ってからでも構いません。 ただ……考え方によっては、今の身体の状態の悪さは“説得力”になる。 言葉は悪いですが、裁判所に訴える力が強いんです。 ずっと悩むより、いっそ勝負に出て、早く自由になって身体を治すのもひとつの方法ですよ」 ……全部言われてしまった。 颯太はショックを受けていないだろうか。 俺はまだ、この問題に踏み込むのは早いと思っていた。 颯太はじっと俯き、目を閉じていた。 心の中で何かと戦っているように見える。 握りしめた拳が震えている。 どうしよう。 止めるべきか? でも山川先生は、颯太の答えを待つように、静かに黙っていた。

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