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第38話 立花家の執事
片付けが終わった頃、立花家の執事・小林さんがやって来た。
玄関で丁寧に頭を下げる姿に、ただならぬ気配を感じる。
とにかくリビングへ案内した。
「突然お邪魔して、本当に申し訳ございません。
私は立花家の執事、小林健(たける)と申します。
本日は急ぎの用がありまして、ぶしつけながら伺いました」
まずは私の家族を紹介した。
「そうですか。皆さまが院長先生のご家族でいらっしゃるのですね。
颯太様も、にぎやかなご家庭で良かったですね」
小林さんは少し言いにくそうに続けた。
「お話の前に、どうしても一枚だけ写真を撮らせていただけないでしょうか。
お世話になっているお宅の様子を会長が拝見したいとの意向でして……。
お許しいただけますでしょうか?」
家族で顔を見合わせたが、特に問題はない。
「いいですよ。では並びましょうか」
颯太を真ん中にして、家族全員で写真を撮ってもらった。
「では、颯太様と院長先生のお二人だけの写真も撮らせていただけますか?」
仕方ないので応じる。
「どうぞ。ほら颯太、笑顔でね」
二人で少し笑って写真に収まった。
「ありがとうございます。会長もきっと喜ばれます」
そう言うと、小林さんは封筒を取り出した。
「実は本日、どうしてもお渡ししたいものがありまして……。
この写真は、お母さまのものです。
おそらくお持ちではないと思い、お届けに参りました」
受け取って颯太と一緒に見る。
若い母親と、幼い颯太。そして見知らぬ男性。
「颯太様、覚えていらっしゃいますか?
そこに写っているのが、あなたの本当のお父様です」
「……は? 何を言ってるんですか……いきなり……」
颯太の顔から血の気が引き、倒れそうになったので思わず抱きしめた。
「はい……今日はお話しするしかないのです。
お母様はその男性と交際され、颯太様をお産みになりました。
会長はそのことをご存じでしたが、お母様の身体が弱かったため、
そのまま面倒を見ておられたのです。
しかし、お母様が四歳の時に亡くなられ……
お母様にそっくりな颯太様を見るのが辛く、離れられたのです。
捨てたのではありません。
ダイニングに据えたカメラから、ずっと成長を見守っておられました」
「……それを話すために来られたんですか?」
「いえ、本題はここからです」
小林さんは深く頭を下げた。
「お父様は今、重病の状態です。
明日からアメリカへ治療に向かわれます。
そして、会社の後継者を颯太様にお決めになりました。
書類はすべて整っております。
明日は山川弁護士にも同席していただき、
会長がこちらに伺って正式にお願いしたいとのことです」
家族は息を呑んだ。
「皆さまお仕事もおありでしょうが……
会長の最後のお願いです。
どうか明日の十時に、一時間ほどお時間をいただけないでしょうか?」
父が私より先に答えた。
「いいですよ。家族全員でお待ちしています。どうぞいらしてください」
「ありがとうございます。
では明日の十時に会長と伺います。
院長先生と颯太様には、実印をご用意いただけますようお願いいたします。
山川弁護士にもお伝えしておきます。
本日はこれで失礼いたします」
小林さんは深く頭を下げ、帰っていった。
颯太はその場にバタンと座り込んでしまった。
「颯太、大丈夫か?」
ただ呆然としたまま、反応がない。
「颯太君、ベッドに横にした方がいいんじゃないか?」
父の言葉にうなずき、颯太を抱えて寝室へ運んだ。
寝かせてからリビングに戻ると、家族が心配そうに待っていた。
「いきなりの真相で……引いたわ……」と楓。
「子どもの颯太君には、受け止めきれませんよ……」と母。
「ああ、残酷な話だ……。
とにかく明日はなんとか皆で繰り合わせて、十時前に来るからな」
父が静かに言った。
「うん……ありがとう。
気をつけて帰ってね。
明日はよろしくお願いします」
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