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第41話 重役たちに挨拶
やがて、きっちり十時三分前にノックが響いた。
電車のダイヤ並みに正確だ。
「会長、お迎えに上がりました。どうぞご案内いたします」
颯太を先頭に、俺と山川弁護士が上川秘書に続いて歩く。
他の秘書も2名後ろから付いてきた。
会長室からエレベーターで34階に降りた。
ここはホールフロアのようだ。大ホールまである。
案内されたのは小ホールになのだろうか。
それでも立派な木製の机と椅子が整然と並び、50人は座れそうだ。
奥には一段高いひな壇があり、そこに俺たちの席が用意されていた。
――思いっきり観察されるな。
そんなプレッシャーを感じる空間だった。
すで40人以上の重役たちが席に着いていた。
今日はグループ各社からもTOPが来たんだな。
ー 重役たちへの紹介ー
上川秘書が前に出る。
「では、お一人ずつご紹介いたします。
ミツワ本社、取締役社長の三浦雅臣……」
名前が読み上げられるたびに、相手が深くお辞儀をし、こちらも礼を返す。
長い。とにかく長い。
颯太が耐えられるか心配で横目で見ると、律儀にきちんと頭を下げていた。
ようやく一通り終わった。
「会長、皆さんに何かお伝えすることがありますか?」
颯太が俺を見る。
うなずく。昨夜練習した通りだ。
「では私が代わりまして、事前に用意したご挨拶を読み上げます」
<初めまして。立花颯太と申します。
これから皆さんのお世話になると思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします>
颯太は深く頭を下げた。
――よし、やった。完璧だ。
上川秘書が締める。
「では以上で終了いたします。皆様、お疲れさまでした」
その時だった。
廊下の方から、何やら争うような声が聞こえてきた。
え?と颯太が驚いた顔をする。
上川秘書がドアへ向かうより早く、勢いよく扉が開いた。
「ちょっと! あんたたち何してるのよ!
あんたが颯太なの? 降りなさいよ!
あんたに跡継ぎの資格なんてないわよ!」
派手な服の中年女性が怒鳴り込んできた。
赤いマニキュアがギラギラ光っている。
颯太は震え、俺の後ろに隠れた。
山川弁護士が一歩前に出る。
「失礼ですが、どなたですか?」
「私が立花の妻よ!
颯太なんて跡継ぎじゃないわ!
なんでここに来たのよ、引っ込んでなさい!」
怒鳴り散らす声が会議室中に響く。
――ああ、社長が言っていたのはこれか。
山川弁護士は冷静だった。
「立花亜矢さんですね。失礼ですが、お引き取りください。
あなたが会長の妻であることは承知していますが、
法律上、あなたはこの会社に一切の権利を持っていません。
ミツワとは無関係の方です。
これ以上続けるなら、警備を呼びます。
川上さん、警備を数人お願いします。
この方を玄関までお送りするよう伝えてください」
「はい、ただいま」
上川秘書は即座にインカムで連絡した。
さすがだ。
その間も、再婚妻は颯太に向かって大声で罵詈雑言を浴びせ続けた。
「颯太、俺の後ろに隠れてろ」
小さな声で囁いた。
俺は立って颯太を背中に隠し、妻が見えないようにした。
颯太は俺の後ろで俺の服を掴み震えていた。
やがて警備員が数人駆けつけ、女を引き離した。
まだ廊下でわめく声が聞こえる。
「すぐ会長を部屋に戻さないといけません」
上川秘書がうなずいた。
「分かりました。後はこちらに任せて、先にお戻りください」
秘書たちが俺たちを守るように取り囲み、会長室へ誘導してくれた。
部屋に戻った途端、颯太は力が抜けたように倒れ込んだ。
そこにはすでにベッドが置かれていた。
――気が利く……!
すぐに颯太を寝かせる。
「先ほど、ご指示を承ったので、至急医務室からベッドを運んでもらいました」
第2秘書の山本さんが教えてくれた。
「行動が早いですね」
山川弁護士が感心したように言う。
診療カバンを開き、颯太を診察した。
血圧が低い。ぐったりして目をつぶっている。
さっきの騒ぎでショックを受けたのだろう。
まだ子どもなのだから当然だ。
普通の人だってあれほど憎しみを込めた罵詈雑言を浴びることなど滅多にない。
具合が悪くなって当然だ。
ノックがあり、上川秘書が入ってきた。
「会長は大丈夫ですか?
洗面器とタオルをお持ちしました。頭を冷やされますか?」
「ああ、本当にありがとうございます。
ベッドも助かりました。まだ安静が必要で……」
「そうでしたか。ご無理をされたんですね。
この後は予定がありませんので、お帰りになっても大丈夫です。
問題があればすぐご連絡します。
それと、車椅子もお持ちしました」
――気が利きすぎる。最高だ。
山川弁護士も言う。
「今日は緊張がピークでしたからね。
契約書の説明は後日でも構いませんが、
よろしかったらコピーしますので、ご自宅で確認されますか?」
「では、お願いします。家で確認します」
すぐに別の秘書が書類を受け取りコピーに走った。
車椅子もベッドのそばに置かれた。
五分も経たずにコピーを渡してくれた。
「車を呼びましたので、下でお待ちしています」
「ありがとう」
山川弁護士、
「私はまだやることがありますので残ります。
今日はゆっくり休んでください。
明日も無理しなくて大丈夫です。
必要なことはメールや電話でお伝えします」
「はい。では、帰らせていただきます。後はよろしくお願いします」
颯太を車椅子に乗せ、秘書に診療カバンを持ってもらいながら玄関へ向かった。
運転手がドアを開けてくれる。
車椅子は借りていこう。
そのまま帰宅した。
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