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第42話 会長室内の個室
昨日、颯太を連れ帰って以来、ずっと寝込んだままだった。
よほどショックが大きかったのだろう。
人からあんなふうに罵られるなんて、颯太にとっては恐らく生まれて初めての経験だ。
それだけじゃない。
あの女性は、颯太の“存在そのもの”を憎んでいた。
この世に生まれてきて自分の存在を全否定されるなんて、十八歳の子どもにはあまりにも酷い。
今日はもちろん休ませるつもりだったが、山川弁護士からメールが届いた。
秘書の上川さんと相談し、颯太がもっとゆっくり休めるように、会長室内に個室を作ることにしたという。
将来のことを考え、オメガである颯太が急にヒートを迎えた場合の避難場所としても必要だと判断したらしい。
個室は防音仕様で、窓はあるが会長室内でも人目に触れない造りにするとのこと。
ドアには鍵も付けるという。
さらにリラックスできるよう、部屋着やパジャマを持ってきてほしいと頼まれた。
……めちゃくちゃ気を使ってくれている(笑)
まあ、普通あれだけの大企業で“会長がオメガ”なんてことは絶対にない。
重役だって全員アルファだ。
フェロモンが漏れないようにしないといけないし、会社の中であっても襲われる危険はある。
だからこそ、避難できる個室は必要なのだ。
さらに、冷蔵庫や電子レンジ、電気ポットも個室内に置くという。
ああ……俺がいつも颯太のお腹を温湿布していると言ったからだろう。
別にあそこに住むわけじゃないけどね。
まあ、将来どうなるかは分からないが、颯太に最大限居心地よく過ごしてほしいという気持ちがありがたい。
あれ? 颯太がぼーっとした顔で起きてきた。
「颯太、おはよう。どうしたの?」
すぐにタブレットを打つ。
<おはようございます。今日は仕事に行かなくていいのですか?>
「うん、しばらく休んでいいんだって。
今、会長室に防音の個室を作ってるところだって。
すごいものができるかもよ。
ドアに鍵も付くし、将来ヒートが来たときの避難場所にもなる。
ありがたいよね。颯太のために作ってくれてるんだよ」
<え?……俺のためにそんなことまでしてもらったら申し訳ないよ>
「いいんだよ。ある意味当然だよ。
会長の身体を守ることが一番大事なんだから。
ヒートが来てフェロモンが漏れたら、会社内でも危ない。
だから避難場所が必要なんだよ」
<そうなんですね>
「それにね、冷蔵庫も電子レンジ、電気ポットまで置いてくれるらしいよ。
もう下宿だね」
颯太がくすっと笑った。
「あとね、パジャマや部屋着も持ってきてほしいって。
スーツのままじゃ横になれないし、疲れるだろうって気を使ってくれたんだよ」
「颯太はまだ十八歳なんだから、十八歳らしくしていいんだよ。
面倒なことは全部、山川弁護士にお願いしよう」
またふふっと笑って、うんうんと頷いた。
「ご飯食べる?」
頷く。<少し>と表示された。
「オムレツとドリンクは? スープいる?」
<卵は一個でいいです。あまり食欲がないんです>
「OK。座ってて。先にドリンク持ってくるね。
そうだ、バナナジュース飲む?」
頷いた。やっぱり子供だな。
でもバナナジュースは栄養があるし、力もつくから賛成だ。
パンはなくてもいい。卵とバナナで十分だ。
先にバナナジュースを作って出すと、颯太はニヤッとして飲み、
“美味しい”の手話をしてくれた。
よしよし。
「体調はどう?」
う〜ん……と首をかしげる。
「無理しないで。しばらく休みなんだから、寝るか、気分転換にどこか行くかにしよう」
オムレツができたので、プチトマトを二個添えて出した。
食べられるかな。
そこへメールが届いた。楓からだ。
<お昼時間を抜け出して、みんなで行くからよろしく>
……は?
お昼ご飯作れってこと? 多分そうだな。
「颯太、お昼ご飯に家族みんなで来るらしいよ」
クスクス笑っている。
「何作ったらいいと思う?」
テーブルのメニュー表を見ていた颯太がタブレットを打つ。
<ピザは? ウーバーイーツで>
「あ、颯太、ナイスアイデア!」
頭をよしよしと撫でると、ふふふと笑った。
時間指定で注文し、ドリンクも一緒に頼んだ。
やっぱりピザには炭酸系だよね。
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