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第43話 ドラえもんのポケット
ウーバーイーツが届いたちょうどその時、家族がドヤドヤとやって来た。
「ど〜も〜、颯太は元気?」と楓。
颯太はうんうんと頷き、少し笑顔を見せた。
「昨日は心配したぞ。どうだったんだよ、聞かせろよ」と父。
「そうですよ、もうやきもきしたんですから」と母。
「向こうで倒れたんだって?」と淳一。
「うん、弁護士に聞いたの?」
「聞くに決まってるでしょう? みんなで心配してたんだからね」と楓。
「そうか、ありがとう。でも今日はこの通り、元気になったみたいだよ」
颯太は照れくさそうに笑った。
ピザを広げる。
「さあ、温かいうちに食べようよ」
わ〜い、と歓声が上がる。
炭酸をどんと置き、他の飲み物はメニュー表を見てもらう。
「え? あらまあ〜すごいね。レストランみたいだね」と楓。
「颯太が作ってくれたんだよ。便利でしょう?」
「俺はアイスコーヒーがいいな」と父。
「俺も」と淳一。
「私はアイスティーね」と母。
好き勝手なこと言ってるな。(笑)
「早く聞かせてよ。どうだったのよ?」と楓。
俺はスマホの写真を見せた。会長室の写真だ。
「え〜すごいねえ〜全部革張りなの?」と楓。
「うん、そうみたいだよ。今ね、颯太のために会長室の中に防音の個室を作ってくれてるんだ」
「へえ〜そりゃすごいな。まあ、将来的にはあった方がいいな。逃げ場がいるだろう?」と父。
「そうなんだよ。周りがアルファばかりだから、社内でも油断できないんだ」
「確かにそうだ。目を離さないようにしてやれよ。危ないからな」と父。
颯太が不安そうに目をきょろきょろさせた。
「颯太、大丈夫だよ。そこまでになるには、まだ時間がかかるって先生に言われただろう? 心配しなくていいよ」
颯太は頷いた。
「そうだ、会長が用意してくれた契約書があるんだけど、コピーをもらったんだ。見る?」
「うん、食べ終わってからでいいよ」と父。
「颯太もまだ見てないね。後でみんなで見ようね」
うん、と頷く。
「父さん、病院を休んでばかりですみません。どうですか?」
「全然変わりないから安心してそっちに専念してくれ。
今回の件は結構大きな経済ニュースになってるぞ。
経済番組でも報道されていたよ。
行方不明と言われた歌手が突然大企業の名誉会長になったんだ。そりゃ報道するだろうな」と父。
「それとな、陽一の院長職はそのままで、うちから出向ということにしてある。でもそっちに専念していいからな」
「うん、父さんありがとう」
「あれ?兄さん、両方から給料をもらうってこと?」淳一が鋭い。
「急に無くしたら税務署が怪しむだろうが......」と父。
皆でくすくす笑った。
「それに診療部門の責任は陽一に残るからな。淳一も楓もそこは気を付けてくれよ」
「はい」と二人が頬を緩ませたまま答えた。
「ところで、颯太は将来的にはどうするんだ?」と父。
「それを今聞く?」
「聞くさ。ずっと会長室に籠っても音楽はやりにくいだろう? 颯太は才能があるんだから勿体ないよ。今、プロの経営者がやってるなら、颯太も陽一も時々会社に行けばいいんじゃないか?」
「会長室でキーボード持って行って作詞作曲すれば? 良いんじゃない?」と楓。
颯太を見ると、ニヤッとしていた。やる気満々だ。
「よし、そうしよう。颯太、会社には優秀な人材がいるんだから、音楽関係のマネージメントもやってもらったら? 専属の人材をつけてもらってもいいし」と、俺も閃いた。
「それはいいわねえ。名誉会長ってなんでもできそうだもんね」と母。
「それはいいけどさ、大学休んでるんだから予習復習はやって卒業はした方がいいよ。会長は大学を出ておかないとね。兄貴が教えれば?」と淳一。
「はい」
ぷっとみんなが笑った。
「颯太、そうしよう。会長室を自分の部屋だと思えばいいよ。新しい部門を作ってもいいんじゃない? 広報の一部とか。会社のCMソング作れば?」
「ええ?」と颯太が目を丸くした。
「それはいいかもね。会長が作曲作詞すれば宣伝費が浮くし、立派な仕事だよ。それに颯太はかわいいもんね〜、CMに出れば?」と楓。
颯太はパッと両手で顔を隠した。
みんなでクスクス笑う。
「出演はともかく、そういう部門があってもおかしくないよね?」
「広報部門の人で誰かいないの? 聞いてみたら? 人材が勿体ないよ」と淳一。
「颯太、じゃあそうする?」
颯太は首をかしげた。まだピンと来ていないか。
「とりあえず、会長室にキーボードは入れよう。上川さんに聞いてみる」
すぐメールした。
あっという間に返事が来た。
「“どれがいいのかメーカーと型番を教えてください。すぐに用意します”だって」
「颯太すごいね、すぐ実現しちゃうよ。恐れ入るわ」楓がびっくりだ。
「颯太、どうせなら、最新型の機能が最高のやつを入れてもらうと良いよ」と淳一が入れ知恵。
「よし、ついでに聞いてみよう。“颯太の音楽関係のマネージメントや仕事の連絡を担当してくれる人はいますか?”で、はい、送信!」
「“少々お待ちください”だってよ」
みんながポカーン。
「まるでドラえもんのポケットだね」と楓。
「お、返事来た。“広報スタッフが対応いたします。なんでもお申し付けください”だって」
みんなが「ほ〜」と声を揃えた。
ここまでくると笑いが出る。
食後は契約書を回し読みした。
「全く、いたせり尽くせりだな。会長もすごく考えてくれたんだな。颯太、良かったな」と父。
ああ〜もう、また颯太が泣きそうだ。
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