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第45話 再演
歌が終わると、一瞬シーンと静まり返った。
そして、誰かがそっと手を叩き始める。
その拍手は次第に大きくなり、やがて大拍手に変わった。
涙で視界が滲む。
颯太がそっと近づき、俺を抱きしめた。
――ダメだ……止まらない。
嗚咽がこみ上げて、どうしても抑えられなかった。
皆が見ているのに……。
山川先生が気を利かせ、皆に「外へ」と手で合図してくれた。
そして先生自身も静かに部屋を出て、ドアを閉めてくれた。
思いっきり抱きしめた。
何も話せないけれど、言葉なんて要らない。
颯太も泣いていた。
「俺たち……止まらないね」
「うん」
今度は声で返事が返って来た。
颯太が疲れる。
そのまま個室のベッドに移動して、横になった颯太を抱きしめた。
「颯太、声が出て良かったね。どうしていきなり声が出せたの?」
「うん、分かんないんだけど、皆が聞きに来てくれてるって思ったら、コンサートみたいに普通に歌えるような気がしたんだ。理由は分からないけど、すっと声が出た。自分でも不思議なんだけど。歌う時は何も考えなかった」
「そうなんだ。不思議だね。でも良かった。家族にも聴かせないとね。すごく喜ぶよ」
「うん、そうする」
「じゃあ、今夜はお祝いしようか? 今から帰る?」
「うん、帰る。なんか作る」
「よし、じゃあ山川先生に電話するよ」
颯太の手を引いてソファに移動した。
「あ、先生。先ほどはすみません。今から帰ろうと思います。
今夜は家族で“声が出たお祝い”をしたいので……帰ってもいいでしょうか?」
「もちろんです。本当に良かったですね。
ちなみに、さっきの演奏は全館に同時放送されたらしいですよ。驚きましたよ」
「ええ? わあ……もう、どう言っていいか……。
皆に見られちゃったなら、しょうがないですね。では失礼します」
――はあ。後は野となれ山となれだ。
上川さんに帰ることを伝えると、
「すぐ車を回します」
と返ってきた。
「さあ、颯太。車を回してくれるって。行こう」
「うん。今夜、何にしようか?」
「お寿司でも取ろうか?」
「うん、賛成。食べたい」
玄関に行くと、受付の女性二人がわーっと拍手で送ってくれた。
「ありがとう」
声をかけて外へ出た。
車の中で家族にグループメールを送った。
「颯太の声が出たから、今夜はお祝いをするよ。集まって」
帰宅して、改めて抱きしめた。
颯太はふふっと笑う。
「また終わらなくなるね」
「俺、なんか作るよ。一緒に作って」
「うん、そうしよう」
着替えて冷蔵庫を覗く。
「まずサラダ作ろうか?」
「うん、じゃあ俺が作る」
二人でいろいろ作った。
お寿司は夕方に届くように頼んである。
家族からも“了解”の返信が来た。
全部揃った。
お寿司も届いて、あとは家族を待つだけ。
そこへやって来た。
ん? なんか抱えてる。
「いえ〜い、シャンパンで乾杯だよ!」と楓。
「颯太、本当に良かったな」と父が喜んでくれた。
「ありがとうございます」
颯太がかわいい声で言った。
全員揃ったところで、
「かんぱーい!」
颯太はジュースだ。
なんだか、重い肩の荷がすっと下りた気がした。
「今日はね、颯太が皆の前でキーボード弾いたり、歌ったりしたんだよ」
「ええ?? 聞きた〜い!」
大合唱だ。しょうがない。
颯太が演奏しながら歌ってくれた。
――ダメだあ……また泣けてくるじゃないか。
あれ? 違う。
楓と母が泣いていた。
もう俺は泣かない。
会社の皆の前で号泣したのは、絶対内緒だ。
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