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第47話 広報チーム始動
翌日、出勤すると、何かが違った。
社員たちの視線が、昨日までとは明らかに違う。
初日は遠慮しつつも、どこか“チェックするような厳しい視線”だった気がする。
でも今日は――柔らかい。
特に女子社員たちの視線が、ふんわりしているように感じた。
……気のせいかな?
会長室に入ると、山川弁護士はすでに来ていた。
今日から山川弁護士にも送迎車がついたらしい。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
早帰りしたので、颯太と二人で改めてお礼を伝えた。
「おはようございます。今日は社内の雰囲気、なんとなく違いませんでしたか?」
「え? やっぱりですか? 俺も入った瞬間に“あれ?”って思ったんですよ」
「昨日の全館放送の演奏が、皆をすごく感動させたようでしてね。
いきなり人気急上昇したようですよ」
「え?」
颯太と顔を見合わせて笑った。
「そうなんですか?」
「はい。それに……颯太さんと院長の仲も“公認”になったようですよ」
「え? どういうことですか?」
「特別顧問という立場が、社員からすると関係性が分かりにくかったようです。
どう接していいか困っていたのかもしれませんね。
でも昨日の……あれが大好評で。
秘書室のスタッフが言うには、“胸キュン”って言うそうですよ」
山川弁護士がアハハと笑う。
俺は恥ずかしくて両手で顔を覆い、後ろを向いてしまった。
颯太も同じく真っ赤になっていた。
そこへ上川秘書がノックして入ってきた。
「おはようございます。
実はですね……まことに申し訳ないのですが、広報スタッフが“全員ご挨拶したい”と申しておりまして……よろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんです。どうぞ入ってもらってください」
すると、ぞろぞろと入ってきた。全部で六人。
「失礼します。突然お邪魔して申し訳ありません。
私は広報課の課長、加納と申します。どうぞよろしくお願いします。
まずスタッフの自己紹介をさせてください」
女性三人、男性二人が続いて自己紹介をした。
こちらも俺と颯太、山川弁護士が挨拶を返した。
「まあ、皆さんどうぞソファにおかけください」
全員が座る。
加納課長が切り出した。
「実はですね。昨日の歌と演奏に皆が感動しまして……
今後の音楽活動や、仕事の対応、マスコミ対応などについて“担当したい”と朝から意見が出まして……、なんというか……仕事の取り合い状態なんですよ」
「ええ? そうなんですか?」
俺と颯太は思わず笑ってしまった。
山川弁護士もクスクス笑っている。
スタッフたちは照れ笑いしたり、恥ずかしそうにしていた。
「それでですね。
これからどんな対応をご希望されているのか、具体的にお聞かせいただきたいんです。
うちのスタッフ、なかなか頑張りますのでね。ぜひやらせていただきたいんですよ」
颯太を見ると、めちゃくちゃ喜んでいる。
「俺から話していいかな?」
颯太に確認すると、こくんと頷いた。
「えーっとですね。
まず立花颯太は今、1年間の休業中なんです。
15歳の時に音楽事務所に入り、寮で生活していました。
その後3年間活動を続けましたが、ハードな内容で心身ともに病んでしまった。
皆さんご存じの通り、最後の公演後に行方不明になりました。
実は、偶然コンサートを見た帰り道で、倒れていた颯太を見つけて自宅に連れて帰ったんです。
ベッドに寝かせて初めて“颯太だ”と気づきました。
でもその時には声を失っていて、身体もボロボロで……ずっと療養生活でした。
大学も休学しています。
その後、立花社長の依頼があって、今こうしてここにいますが……
颯太はまだ療養中なんです。
ただ昨日、突然声が復活して……本当に驚きました。
今は、ファン向けのサイトで“1年間の休業中・仕事の依頼は受けません”とだけ出している状態です。
これが今までの経過になります」
加納課長は深く頷いた。
「そうだったんですね……。
本当に大変な思いをされたんですね。
また突然の名誉会長就任も、さぞ戸惑われたことでしょう。
ただ、声が復活されたなら……
ご無理のない範囲で、ネットだけ、写真集だけ、そういった軽い活動から始めていただくのはどうでしょうか?
スタッフがやる気満々でしてね。
ご負担をかけるつもりはありませんが、今後の方針を伺えればと思いまして」
その時、女性スタッフの一人がスッと手を上げた。
加納課長が「あれ?」と目を丸くする。
「なに?」
「すみません……少し、私たちからお話しさせていただけないでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
なんだか楽しくなってきた。
颯太を見ると、完全に“面白がっている顔”だった。
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