49 / 63
第49話 最初の一歩
広報の皆さんが戻った後、
「颯太、明日から皆さんと会議をするなら、会議机を用意した方がいいんじゃないの?
ちゃんとパソコンも繋げられるようにしてさ。ソファだとやりにくいと思うよ」
と俺が言うと、
「あ、そうだ。ちょっと上川さんに来てもらうよ」
颯太が電話すると、すぐに来てくれた。
もうここからは颯太に任せた。
「御用でしょうか?」
「あのう、明日から広報の皆さんと毎日10時から会議をすることにしたんですよ。
それで、各自がパソコンを繋いで会議ができるような机と椅子を置きたいんですが、できますか?」
「はい、大丈夫です。何人分ですか?」
「ええと、8人分あればいいんですけど」
「分かりました。全体のレイアウトを少し変えましょうか。周りを詰めれば入ると思います。今、他のスタッフを呼びますね」
秘書室の男性スタッフが二人来てくれて、家具の配置を変えていく。
その後、倉庫から会議机と椅子を持ってきて、手際よくセッティングしてくれた。
最後に電源コードを繋いでくれて、準備完了だ。
会長室が段々狭くなってきたけど、俺はなんだか楽しい。
颯太は急にやる気が出たようで、本当にありがたいことだ。
「颯太さん、良かったですね。それに広報の皆さんのパワーが凄いじゃないですか。驚きましたよ。歌の力ってすごいんですね」
山川先生も感心していた。
俺だって圧倒された。あの熱量はすごい。
「颯太のファンってすごく多いんだねえ。うれしいね。やる気が出たんじゃない?」
颯太は照れくさそうに「うん」と頷いた。
「ところでさ、そろそろお昼じゃない? 食堂に行こうよ」
「うん。俺もお腹すいちゃった」
「じゃあ、私もお昼にしますよ」
ということで、三人で30階の社員食堂に向かった。
俺たちが食堂に入ると、皆が一斉に颯太を見て拍手が湧き起こった。
「え?」
突然のことで颯太は戸惑っていたが、
「歌も演奏もすごく良かったですよ!」
と、次々と社員たちから声を掛けられ、
うれしそうに頭を下げてお礼を言っていた。
颯太は一気に溶け込めたね。本当に良かった。
この食堂はまるでカフェのような素敵なデザインだ。
さすがに建物が立派なだけはある。
ランチのメニューは日替わり定食、カレー、ハンバーグ、天丼、そば、うどん。
結構豊富に揃っている。
カフェメニューも普通のカフェとそんなに変わらない。
颯太はカレーを選んでいた。じゃあ、俺もカレーだ。
今日はチキンカレーで、ごろんと大きなチキンが入っている。
「颯太、ここにいれば飢えないで済むね。もう夕食を作らなくてもいいんじゃない? 食べて帰ろうか?」
「ダメ。俺が作るから、先生はそれを食べて」
「はいはい」
山川先生に笑われた。
食事を終えて会長室に戻ると、
颯太はすぐにパソコンに向かって何やら打ち始めた。
俺はこれといってやることがない。
退屈すぎる。なんか仕事がないかな?
上川さんに電話して聞いてみた。
「ここの医務室って、医師はいつもいるんですか?」
「いいえ、ナースが一人いるだけで、一応オンコールなんですが、緊急の場合は救急車を呼びますし、それほどでなければ契約先の近くの医院に行ってもらうんですよ」
「そうですか。では、ちょっと挨拶に行ってきますよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます。お伝えしておきますね」
「颯太、ちょっと30階の医務室に行ってくるね」
「一人で行くの? じゃあ、俺も行こうかな?」
「いいよ。無理しなくていいから、パソコン続けてれば?」
「ううん、一緒に行く」
ちょっと笑うな。
「寂しいの?」
「違う。俺も見ておきたいから」
「ふ〜ん」
「じゃあ、山川先生、ちょっと医務室に行ってきますね」
「はい、行ってらっしゃい」
俺たちのやり取りを見て、山川先生はニヤニヤしていた。
全く……恥ずかしいな。
ともだちにシェアしよう!

