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第50話 医務室の男子ナース
医務室は30階にある。食堂と同じフロアだ。
エレベーターの近くにあり、搬送を考えてこの位置にしたのだろう。
ノックをすると、薄いミントグリーンのスクラブを着た若い男性が出迎えてくれた。
上川秘書から連絡が入っていたのだろう。
ナースって男性?
そう思ったが、溌溂とした感じの良い青年だった。
俺たちが部屋に入ると、彼は丁寧に挨拶をしてくれた。
「こんにちは。初めまして。ナースの沢野達也です。どうぞよろしくお願いします」
「いきなりすみません。特別顧問の佐久間です。初めまして。一応ご挨拶をしておこうと思いまして。どうぞよろしくお願いします」
颯太も続いて挨拶した。
「初めまして、会長の立花翔太です。お世話になるかもしれないので、どうぞよろしくお願いします」
「お時間があれば、お茶でもいかがですか? ここ、給茶機があるんですよ。どうぞおかけください」
「はい、いただきます」
颯太と並んでベンチに座ると、
紙コップに入れたほうじ茶を小さなテーブルに置いてくれた。
沢野さんも小さなスツールを持ってきて腰を下ろした。
「ここは沢野さん一人だそうですね? ご不自由はありませんか?」
「そうですね。不自由と言えば……私が男だということでしょうか」
「え?」
思わず颯太と顔を見合わせて笑ってしまった。
沢野さんも照れたように笑っている。
「やはり男性だと不利ですか?」
「そうなんですよ。女性が多い会社なので、いくらナースでも話しにくいらしくて、あまり来てくれないんですよ」
「ほう〜。では1日に何人くらい来るんですか?」
「大体5人から10人くらいでしょうか。湿布が欲しいとか、血糖値や血圧を測りたいとか、休ませて欲しいとかですね。まあ、こちらもその程度しか対応できないんですけどね」
「それだと時間を持て余すでしょう?」
「そうなんですよ。困っちゃいます」
「具合の悪い人は契約先の医院に行ってもらうと聞いたのですが、一人でそこまで行けるのでしょうか? ちょっと気になったのですが」
「はい。本当は動かしたくないんですが、医師が常駐していないのでタクシーで行ってもらいます」
「ご存じかと思いますが、私は特別医療顧問になっています。今療養中の会長の健康を守るためでもありますが、医師ですから皆さんの力にはなりたいと思っています。緊急のヘルプには走りますから、呼んでください」
「え、本当ですか? うわ〜助かる。実は、いつ重病人が来るかと思うと、一人だからドキドキで怖いんですよ」
「そうですよね。それで、会長のためでもあるのですが、緊急用に医薬品などを少し用意しておきたいんです。ちょっと調べさせていただいてもよろしいでしょうか? 足りないものは佐久間総合病院から必要な分だけ注文しようと思っています。たくさんは要りませんので」
「はい、分かりました。すべてお任せしますので、どうぞよろしくお願いします」
それから、俺が言う内容を颯太にタブレットで入力してもらった。
その間、沢野さんは静かに見守っていた。
「では、分かりましたので注文しておきます。注文品が届いたら呼んでいただけますか? 説明したいことがありますので」
「はい、かしこまりました。どうぞよろしくお願いします」
沢野さんに見送られて医務室を出た。
「先生、俺のために申し訳ないです。いつも手間ばかりかけてしまって……」
「颯太、俺はそれがうれしいんだからいいの。任せて」
二人でクスクス笑った。
今は誰も見ていないからな。
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