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第53話 リスク管理・2
帰ると颯太の点滴を外した。まだ眠っているようだ。
ようやく医務室は整ったが、颯太を守るにはまだまだ不十分だ。
「山川先生、少しご相談したいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
「あ、もちろん構いませんよ」
山川先生にはソファに座ってもらい、上川秘書にも来てもらった。
「実はですね。医務室には緊急時の準備は整えましたが、会長を守るには全体的にまだ不足していると思うんです。
あの奥様ですが……精神科医の立場から見ても、あのまま引き下がるとは思えません。
変装して侵入したり、人を使って会長を傷つけようとしてもおかしくない。
ですので、もっと対策を取りたいのですが、協力していただけないでしょうか?」
「はい、それはもっともですね。先生がそう判断されたのなら、私にできることは何でもいたしますよ」
山川先生はすぐに賛成してくれた。
上川秘書も「なんでもおっしゃってください。どうすればよろしいですか?」と身を乗り出す。
少し思いつめたような表情をされたので、怖がらせてしまったかもしれない。
「まずですね。あそこの個室に非常ベルを付けたいんです。火災警報とは違う音で。
それが警備室、秘書室、休憩室、医務室にも聞こえるようにしてほしい。
それから、同じものをエレベーターへ続く廊下にも数か所。
トイレにもお願いします。
あと、建築士の方に相談したいことがあるとお伝えいただけますか?」
二人とも絶句していた。
山川先生が、やや声を落として尋ねる。
「院長……そんなに危ないですか? 警備の目をくぐってここまで来るでしょうか?」
「今はまだそう思うでしょうが、今後――会長が亡くなられた後のことが心配なんですよ。
颯太は莫大な財産を継ぐことになりますよね?
あの方の不満や怒りが爆発する可能性は高い。
だからこそ、颯太を一人にしてはいけないと思うんです。
もし偶然、部屋に颯太一人だけになることがあったら、個室に入って鍵を掛けるようにしてもらおうと思っています。
それと、今後は会社以外の場所にいる時のセキュリティも考えた方がいい。
例えば外出する場合には、ガードマンを雇った方がいいでしょう。
私一人では、360度すべてに目を配ることはできませんからね。
社長もその辺のことは考えていらしたと思いますよ。
後継者について、“颯太以外の者には会社の権利は持たせない”とわざわざおっしゃっていましたよね?
あれは奥様の動きを予想してのことだと思うんです」
その時、颯太が起きてきて、不安そうな顔で俺の横に座った。
「颯太は大丈夫だから、心配しなくていいよ。絶対に守るからね。
ただ、ここで一人になったら必ず個室に入って、私が声を掛けるまでは鍵を掛けておくんだよ。わかった?」
「……はい」
俯いたまま、俺の服の端をぎゅっと掴んだ。
上川秘書は状況を理解してくれたようで、
「お話はよく分かりましたので、建築士の方に来てもらいますね。
セキュリティについてもご一緒に相談した方がいいですよね。では連絡を取りますので、少々お待ちください」
そう言って秘書室へ戻っていった。
山川弁護士は深いため息をついた。
「はあ……前途多難ですね。先が思いやられますよ」
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