54 / 63

第54話 秘密の抜け穴

山川弁護士も心配してくれている。俺は続けた。 「そうですね。少しでも早く対策を取っておけば、気持ちが落ち着くと思います。 今まで立花前会長はその辺のセキュリティをどうされていたのか、執事の小林さんに伺おうと思っています。きっと参考になると思うんですよね」 「ああ、それはいい考えですね。それこそ一番に聞いた方がいいですね」 その後、上川秘書に小林さんを呼んでほしいとお願いした。 翌日、小林さんが来てくれた。 「わざわざお呼び立てして申し訳ありません」 「いえいえ、私でお役に立つことがあれば何なりとどうぞ。こうして颯太様にお会いできるのが嬉しいです」 「小林さん、ありがとう」 颯太がお礼を言うと、小林さんは目を丸くした。 「えー!? 颯太様、お声が出るようになられたのですか?」 ふふ、と颯太がニヤニヤしてうなずく。 「すみません、連絡がまだでしたね。こちらに来て数日で声が戻ったんですよ」 「そうだったんですか。早速前会長にお伝えしますね。どんなにお喜びになることか……」 「はい、どうぞよろしくお伝えください。それで、実は少し教えていただきたいことがあるんです」 そこから俺は、颯太のセキュリティについていろいろ相談した。 「はい、ごもっともです。恐らく院長先生なら必ずお聞きになるだろうと、前会長がおっしゃって用意されたものがあるんですよ」 「え?」 俺たちは顔を見合わせた。 小林さんはカバンから大きな封筒を取り出した。 中には、前会長が用意したセキュリティ方法やガードマンの連絡先などが、事細かに書かれていた。 そして一番驚いたのは―― すでに“秘密の抜け穴”が存在していたことだ。 これには全員が驚愕した。 ここを知っているのは、前会長と小林さん、第一秘書の上川さん、そして建築士だけだという。 場所は会長の机の下。 潜り込んで真上のボタンを押すと、なんと下の階へ続く滑り台が現れた。 俺たちは順に滑り台を使って降りてみた。 そこは狭い物置のような個室だったが、 消火器、酸素ボンベ、バケツ、毛布、水などの防災用具が整然と置かれ、壁際にはベンチまであった。 さらに、壁の左側を押すと、もう一つの個室が現れた。 そこは文書を入れた段ボール箱が積まれた倉庫になっていた。 これなら誰が見ても分からない。 しかも外のドアには「秘書室専用書庫」の札がかかっており、外側からは鍵がないと開けられない仕組みだ。 「わあ〜すごいねえ。これなら大丈夫だね!」 颯太も嬉しそうだ。 小林さんが補足する。 「先ほどの机の下の扉はすぐ閉まってしまうので、次の方はボタンを押し続けるか、素早く中に降りないといけないんですよ。 そうしないと抜け道が見つかってしまいますからね」 へえ〜!へえ〜!と、俺たちは驚きすぎてそれしか言えなかった。 元の会長室へ戻り、 上川秘書に「抜け道を通って書庫から出てきたので、また鍵を掛けておいてください」とお願いした。 上川秘書は少し微笑んでいた。 その後も小林さんからいろいろ教わった。 中でも驚いたのは、颯太が住んでいた家のセキュリティだ。 夜間はあちこちに赤外線が通され、不審者は即座に感知され、警報が鳴りっぱなしになるという。 「もし今の住まいが心配なら、そちらの家に住んだ方が安全だと前会長がおっしゃっていました」と小林さん。 そうか…… でも颯太にとっては、寂しかった子供時代の思い出が詰まった家だ。 「颯太。お父さんは、そちらの家の方が安全だとおっしゃってるそうだけど、どうする? 俺は颯太が良いなら一緒に行くよ」 「う……ん……」 すぐには決断できないようだ。 「颯太、すぐ答えが出ないなら、少し時間を置こう。急ぐことはないよ」 「はい」 今度はちゃんと返事をした。 「では小林さん、颯太はすぐ決断できないようなので、また今度ご相談させてください」 「はい、颯太様のお気持ちはよく分かります。ご無理をされることはありません。 ただ、使用人たちがものすごく颯太様にお会いしたいと言っておりました。 またお時間がありましたら、ぜひ顔を見せてやってください。お願いします」 名残惜しそうな表情のまま、小林さんは帰っていった。 「颯太は、皆さんに可愛がられて育ったんだね」 「うん」 颯太は素直に頷いた。 「じゃあ、もう少し元気になったら、ケーキでも買って顔を見せてあげたら? それだけでも喜ばれるんじゃない?」 「うん、いつかそうする」

ともだちにシェアしよう!