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第56話  都会で芋ほり?

その日は、家族が夕食に来るというので鍋料理にした。 すぐできる鶏肉団子の寄せ鍋だ。 「颯太、材料を切るの手伝ってくれる?」 「うん、任せて」 鶏ひき肉で団子を作り、スプーンですくってポンポンと鍋に落としていく。 これだけでおいしい出汁が出るから簡単だ。 味を調えて、薬味を揃えれば出来上がり。 ピンポーン、とチャイムが鳴った。颯太が走った。 「ハーイ! 颯太元気?」 楓が颯太とハイタッチしている。 「美味しそうなワインがあったから持ってきたよ」父が瓶を掲げた。 「具合はどうなの?」と淳一。 「もう治ったみたいです」 颯太が笑顔で報告しているが、 それが本当ならいいんだけどさ。 乾杯して、皆で食べ始めた。 「会社はどうなんだ?」と父。 思わずため息をつく。 「今ね、セキュリティの話で大変なんだよ」 「大変って?」と淳一。 「医務室の医薬品は用意できたんだけど、次は身辺警護の問題があってね。 執事の小林さんから前会長のセキュリティについて聞いたら、すごかったんだよ」 「え、え、なに?」と楓。 颯太は照れくさそうにニヤニヤしている。 「颯太の生家って、執事のほかに使用人は何人いるんだっけ?」 「ええと、家政婦さんが4人と、運転手兼庭仕事の人が1人かな」 「ドヒャッ」楓もびっくりだ。 「それでね、夜間なんかは赤外線を張ってるそうなんだ。 すごくセキュリティが強固にできているから、良かったら住んでくださいって内容だったよ」 父が眉を寄せる。 「でも精神的にまだ行けないんじゃないかな? 颯太はどうなの?」 颯太はうつむいて、小さくうなずいた。 「颯太は無理しなくていいよ。ここにずっといればいいじゃん」と淳一。 「身辺警護は、連絡先が書いてあったからそこにお願いしようと思ってる。 明日、担当の人が来てくれるんだよ」 「ふ~ん。颯太のお父さんも大変だったんだね。あまり自由がなかったのかな?」と父。 楓が首をかしげる。 「警護されるのって不自由なのかなあ? 私はSPに囲まれた要人って見たことがないわ」 「カフェに入りたくなったらどうするのかなあ? やっぱりスーパーでも限られた所にしか行けないのかなあ」と淳一。 「それは……、俺も全然分からない」 警護されてみないと分からないよ。 皆でクスクス笑った。 父が言う。 「颯太、不自由になったらたまにはうちに遊びにおいで。池に鯉がいっぱいいるんだよ。畑もあるしさ」 「畑があるの?」と颯太。 「そうだよ。でも都会の真ん中だから場所は小さいけどね。 さつまいもとジャガイモはいつも作ってるよね? 美味しいんだよ。 芋ほりにおいで。焼き芋を皆で作るんだよ」と楓。 颯太はうんうんと嬉しそうにしていた。 颯太も大分うちの家族に親しんできたようだ。 こういう時は家族の存在がありがたいよ。

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