58 / 63

第58話 要人警備担当者

翌日、10時に警備会社から要人担当者が来てくれた。 説明を受けるのは俺と颯太、山川弁護士。そして上川秘書も同席だ。 会長室に入ってきた担当者は、ビシッとしていて隙のない雰囲気だった。 無駄のない動きで軽く頭を下げる。 「本日はよろしくお願いいたします。 要人警護主任の三枝です」 颯太は緊張して、院長の袖をそっとつまんだ。 院長が小声で囁く。 「大丈夫。怖い人じゃないよ。プロなだけだよ」 三枝さんは席に着くと、淡々とファイルを開いた。 「まず、会長の警護体制についてご説明します。 会長の場合、常時2名の近接警護が必要になります」 「じょ、常時……? ずっと?」と颯太。 「はい。会長の周囲1メートル以内に1名、 周囲の監視と先行確認を行う者が1名、これが“最低限”です」 「最低限でそれ……?」 「颯太、これは“守るための最低ライン”なんだと思うよ」と院長。 「次に車両ですが、防弾ガラス・ランフラットタイヤの専用車を使用します。 ドライバーは危機回避訓練を受けた者が担当します」 「……ランフラットって何?」 「タイヤが撃たれたりパンクしても走れるタイヤです」と山川弁護士。 「撃たれ……? え、そんな……」 颯太はすっかり怖がってしまった。 「颯太、あくまで“最悪のケース”を想定してるだけだよ。 実際にそんなことは起きないから」と院長。 「はい。ですが、備えは必要です」と三枝。 「緊急時には、10分以内に武装警護車両が到着します。 会長を安全なルートで退避させます」 「10分以内って……そんなに早く?」と院長。 「会長の位置情報と連動していますので。 常に最寄りのチームが待機しています」 「……なんか、俺ってそんなに危ないの?」と颯太。 「颯太の肩には3万人の生活が乗ってるんだよ。 その重さを守るための仕組みなんだよ。しょうがないよ」 俺が説明すると、颯太は口をつぐんだ。 「会長の生活動線をすべて把握し、“安全なルート”を常に確保します」 「生活動線って……どこまで?」と院長。 「自宅、会社、会長室、食堂、フィットネス、医務室。 休日の外出は事前に申請していただきます」 「えっ、休日も……?」 「会長の安全に休日はありませんからねえ」と山川弁護士。 「うわぁ……」皆で笑った。 「具体的には、事前に行かれる可能性のある場所を登録しておきます。 もちろん突発的なお出かけ先にも24時間対応いたします」 颯太は口を半開きにしたまま固まっている。 「颯太、守られるってそういうことなんだよ」と院長。 「遠方移動の場合は、ヘリポートからの空路も選択肢に入ります」 「へ、ヘリ……? 俺が……?」 今度は目を真ん丸にしていた。 皆でくすくす笑う。高所恐怖症だったのだろうか。 ここで上川秘書が補足した。 「このビルの屋上にはヘリポートがあります。 前会長も地方の視察にはよく利用されていました。 今後のことを考えると、空路も契約に入れておいた方がいいかもしれませんね」 「はい。地上より空路の方が安全な場合があります」と三枝。 「……なんか、映画みたいだね」 「うん、颯太、映画俳優も悪くないんじゃない?」と院長が笑う。 三枝さんはファイルを閉じ、静かに言った。 「会長、どうか安心してください。 私たちの仕事は、会長の自由を奪うことではありません。 会長の自由を守ることです。 そのために、この体制を敷かせていただきます」 颯太はしばらく黙っていたが、 やがて小さく頷いた。 「……お願いします」 三枝は深く頭を下げた。 「承知しました。 会長の安全は、私たちが必ず守ります」 会長室の空気が、静かに引き締まった。 「では上川さん、あとの契約はお手数ですがよろしくお願いします」と院長。 「はい、慣れておりますからご安心ください。 今後は総務部と経理課が契約を進めてまいりますので、どうぞご安心ください。 契約書が整いましたらご連絡いたします」 すべての説明が終わり、三枝さんは上川秘書と一緒に戻っていった。 「先生、俺どうしよう? こわいよ。なんだか急に狙われそうな気がしてきた」 「大丈夫ですよ。前会長だってご無事だったじゃないですか?」と山川弁護士。 「そうだよ、颯太。怖くないようにするための警備なんだから、 颯太はいちいちSPを気にしなくていいよ」 「はい、わかりました」

ともだちにシェアしよう!