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第63話 初エステ

予告通り、上川秘書がやってきた。 「では、美容院とエステに向かうよう警備に伝えておりますのでご安心ください。また、お帰りの時刻も承知しております。それから広報スタッフが確認のため向こうで待機しております。写真を撮りたいそうですので、よろしくお願いします」 ふふふ……もう笑うしかない。 颯太が俺の顔を見て、そっと手を繋いできた。 しょうがない。 「じゃあ、行こう」 会社なのに、二人で手を繋いで移動することになるとは。 SPは例によって、先にエレベーターに乗って押さえていた。 秘書たちに「行ってらっしゃいませ」と送られ、下へ降りる。 受付のスタッフも「行ってらっしゃいませ」と声を揃える。 またSPに先導されて車に乗った。 行き先は……知らん。どこへ連れて行かれるんだか。 着いた先は、高級住宅地にある、結婚式場かと思うほどベージュの美しい建物だった。 ここでもSPに先導される。 入り口ではスタッフが構えており、広報の山下さんが待っていた。 「お疲れ様です。お待ちしておりました」 豪華なラウンジに通され、ハーブティーが出された。 そして今日のエステのメニュー説明が始まる。 ……はっきり言って、内容が俺には分からない。 もうこうなったら、まな板の上の鯉だ。 あきらめた。 先にヘアカット。シャンプーしてスタイリング。 それからエステが始まった。 マッサージだのパックだの……俺には関係のない世界だ。 颯太だけきれいになればいい。 隣をちらっと見ると、颯太はどうも眠っているような気がした。 最後にもう一度ヘアのスタイリングをしてもらって終了。 広報の山下さんが「まあ〜素敵!」と声を上げた。 確かに颯太はすごく可愛く、きれいになっていた。 さすが芸能人。磨けば光る。 「颯太、すごく可愛くなったよ」 颯太はニヤッとしていた。 「先生も本当にイケメンですね」なんて言ってくれた。 豪華なラウンジで、山下さんが俺たちを万遍なく写真に収めていく。 時間通り11時40分に終わり、そのままSPに誘導されて会社に戻った。 ……俺はなんだか山川先生に見られたくない。 つまり家に帰りたい。恥ずかしすぎるよ。 でもSPがどんどん先導するから逃げられない。 会長室に入ると、 「ほう〜変わりましたねえ。格好いいですよ」 山川先生が俺達を交互に見て褒めまくってくれた。 御礼を言ってから、 「颯太、ご飯にしようよ。疲れたよ」 「うん、俺もお腹空いた」 「行ってきます」と言って廊下に出ると、SPがしっかり2名待機していた。 「30階の食堂に行きます」と伝える。 会長専用エレベーターは、こちらが行きたい階で停まってくれる。 先にSPが降り、クリアになったら先導されてついていく。 しかし、早めに来ていた社員たちが「ほう〜」とばかりに俺たちに目を釘付けにしていた。 SPを連れてここに来たのは初めてだ。 「颯太、気にしないで、いつものように食べようよ」 「はい、そうしましょう」 さっさとトレーに料理を乗せてテーブルを探すと、 「お待ちください。ご案内します」 SPが安全な席を指定してくれた。 ……もうどうしようもない。 その辺にいた社員たちが、そーっと周りから散っていった。 遠慮して他の席に移ったのだ。本当に申し訳ない。 「皆さん、ごめんなさいね」 近くにいた社員たちに一言お詫びした。 ここにいるのが、すごく居心地が悪くなった。

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