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第66話 弁護士のささやかな希望
「颯太、なんかエステに行ったり、衣装をいっぱい会社に用意してもらったんだけどさ……申し訳なくてさ。颯太だけなら分かるんだけどね。俺は余計じゃない?」
「え?違う。余計じゃない。先生は俺とセットだから、一緒にきれいでいてほしい」
「そうかな? 颯太もさ、まだ音楽は再開していないしねぇ。
会社のために、何か実になるようなことをした方が良くない?」
「え?どんなこと?」
「だからさ、ミツワのCMソングでも作って、歌ってもいいし。それは立派な仕事になるからさ。きっとみんな泣いて喜ぶよ」
「本気?」
「うん、本気。颯太の音楽の才能は素晴らしいよ。涙が出るもん。だからお願い、作って」
「俺が作れば先生も少しは気が楽になるの?」
「なるなる。絶対なる」
ふふふと笑っていた。
「うん、じゃあ作るね」
「ああ、颯太はいい子だ。ちょっと個室においで」
ちょうど山川先生が席を外している。よしよし。
颯太の手を引っ張って個室に入った。
そして抱きしめて、キスを何回も交わした。
「颯太、かわいいね。いつも応援してるよ」
颯太が無抵抗だ。かわいい。
「じゃあ、作ってくれるの待ってるね」
「うん、わかった」
個室を出ると、もう山川先生が戻っていた。
なんだか照れくさい。
「お帰りなさい」と声を掛けた。
「はいはい、もうちょっと遅い方が良かったかな?」
プハーっと吹き出してしまった。
俺も颯太も照れ笑いが止まらない。
「どうでしょうねぇ? そろそろ私にも個室をいただけるといいんですけどねぇ。
なんか集中しにくいんですよ。
私一人なら、廊下から入れるドアと、会長室からも出入りできるドアがあればいいと思うんですけど……考えていただけないですか?」
思いっきり山川弁護士に言われてしまった。恥ずかしい。
でも颯太が「はい、分かりました。すぐ相談します」なんて言っちゃってるし。
上川秘書を呼んだ。
「はい、御用でしょうか?」
「建築士の方、呼んでいただけますか? ちょっと変えてほしいところがあるんですけど」
「はい、どこをでしょうか?」
「あの……山川先生が一人になりたいそうです」
そう言いながらも颯太が吹き出していた。
俺も先生も大笑いだ。
「ええ……っと、よく分からないのですが」と秘書が困っている。
今度は山川先生の番だった。
「あのね、もうちょっと会長室を詰めて、私用に個室を作ってほしいんですよ。廊下からも会長室からも出入りできるドアを作ってほしいんです。あとは机と椅子と本棚があれば十分です。それを相談してもらえませんか?」
「はい、承知いたしました。早速、建築士の方に来てもらいますね」
「なんか、すみません」と先生にお詫びした。
「いえいえ、院長と颯太さんがお幸せなら、それが何よりですよ」
もう恥ずかしいったらなかった。
***
翌日、もう建築の方が来てくれた。
何回もあれこれ作り変えてもらっているから、あきれているだろうな‥‥‥。
でも「簡単にできます」と言ってくれた。良かった。
ただ、廊下で待機していたSPから確認が入った。
会長室から出入りできるドアを作るなら、廊下側のドアも常に鍵を掛けてほしいとのこと。
または「出入りできるドア自体が危険なので作らない方が好ましい」とも言われた。
結局、山川弁護士の個室には会長室に通じるドアは作らず、
常に廊下からしか入れない造り にすることになった。
確かに山川さんからしたら、俺達のことで仕事に集中できないかったかもしれない。
今まで申し訳なかったな。
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