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第69話 楓のSP付買い物ツアー
朝9時40分。
俺と颯太はスタイリストのコーディネートで準備済み。
玄関の内側で緊張して待っていた。(自分ちなのに……)
時間ぴったりにチャイムが鳴った。
「お早うございます」
「お早うございます。今日は佐久間病院のご家族も現地集合しますので、よろしくお願いします」
例によって、ピカピカの黒塗りの高級車が2台連なって軽快に進む。
今日の待ち合わせ場所の多野川方面は郊外なので、日本橋に行くより道がスムーズだ。
SPも「ここは助かります」と言っていた。
***
現地の百貨店に着くと、駐車場に案内され、そのままエレベーターでSPに先導されて上へ。
百貨店の通路を、まるで知り尽くしているかのようにさっさと歩くSP。
でも、それほど注目を浴びるわけではない。なんか普通の感じだ。
「先生、なんだか駐車場でも人があまりびっくりしなかったみたいだね」
「多分慣れてるんじゃない。この辺の富裕層はみんなここに来るんだと思うよ」
そして外商サロンへ。
すでに何人かスーツ姿の人たちが並んでいて、深くお辞儀をされた。
サロンのドアはSPが先に入ってチェック。
あらかじめ用意されていたらしい、つい立てで囲われた一角があった。
楓たちがもうそこにいて、手を振っていた。
そこで初めて、先ほど並んでいた人達から挨拶を受けた。
「いらっしゃいませ。本日はご来店いただき、誠にありがとうございます。店長の橋本でございます。どうぞよろしくお願いいたします」
颯太はこういうこともあるかと思って、練習しておいた。
「初めまして、ミツワの名誉会長の立花颯太です。今日はよろしくお願いします」
ちゃんと挨拶ができた。
俺も続く。
「佐久間総合病院の院長で、今はミツワの特別顧問の佐久間です。よろしくお願いします」
店長は丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ光栄でございます。本日は日本橋の吉田外商部長がご案内いたしますので、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
笑顔で下がっていった。
その後、日本橋本店の吉田外商部長と山田係長の挨拶も受けた。
ここまでが長かった。最初だからな。
楓たちは待ちくたびれていた。
吉田外商部長が颯太に尋ねる。
「本日はどこを回りましょうか?」
まずい。颯太は買うつもりがない。
「えっとですね。紳士用の寝間着類を買いたいと思っているのですが」
颯太の代わりに答えた。
「はい、かしこまりました。では3階に参りましょう」
SPがまたエレベーターに先導し、がっしりと颯太をガードする。
笑いが出る世界だ。
ふと後ろを見ると、楓や淳一がクスクス笑っていた。
母や父も、最初の驚きがだいぶ落ち着いたようだ。
3階に着くと、またSP主導で最後に颯太が降りる。
先に降りた母たちも、それを見守って待っていた。
もちろん、このエレベーターは俺達専用になっていて、サービスの女性がコントロールしていた。
他の客は「休止」の札が下がっているから乗れない。
楓が面白そうに札を眺めて、他のエレベーターと見比べていた。
***
吉田外商部長が先に歩き、次にSP。
その後ろに颯太と横にSP。また後ろにはSP。
次に俺、その後ろに家族が縦一列で続く。
最後が山田係長。
完全に大名行列だ。
そしてSPがめちゃくちゃ目立つ。
日曜日のブラックスーツのSPたちは、そりゃ目を引くさ。
寝間着売り場に到着。
早速見る。やはり素材が良さそうだ。
シルクのパジャマがあった。
「こちらは最高級のシルクでございます。軽くて温かく、お布団の中でもスムーズに寝返りができます」
お奨め上手な店員さんが説明してくれた。
寝返りがスムーズ?
ピンときた。
それは颯太に必要だ。
「颯太、これを買わないか? 寝返りが楽なんだって」
こっそり耳元で颯太が言う。
「俺、今着てる洗いざらしのパジャマでいいんだけど」
思わず周りを見回した。
そこは客商売。適度に離れていてくれた。
ただし、楓だけは聞き逃すまいとそばに張り付いていた
そばにいるのは売り場のスタッフだけだ。
「ダメ、これを買おうよ。俺も揃えるからさ」
「うん、じゃあいいよ」
その他にバスローブを2枚買った。
これも素材が良さそうで、手触りがいい。
良し、これでいいかな?と周りを見ると、下着売り場があった。
最近買ったばかりだけど、コンビニで買ったやつだ。
「颯太、下着も少し買ったら?」
また耳元でささやく。
「先生、俺アニクロで十分だよ。あんまり高級な物を買っても履き方が分からないよ」
「は? 履き方?」
そばで見ていた楓が口を押えて笑い転げていた。
壺にハマったらしい。
とにかく、ものは試しで俺の1枚と颯太の1枚を買ってみた。
履き方を教えてやらないといけない。
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