72 / 98
第72話 家庭教師
上川秘書が家庭教師を紹介してくれた。
「こちらは白石 悠先生です」
30代前半だろうか。長身で、穏やかな雰囲気の男性だった。
「初めまして、白石悠と申します。どうぞよろしくお願いします」
こちらも二人で挨拶をした。
「どうぞおかけください」ソファをすすめた。
上川秘書が「こちらはお預かりした履歴書です」と渡してくれて戻っていった。
そこへ山本秘書がお茶を持ってきてくれた。
「では履歴書を拝見しますので、少々お待ちください」
颯太と二人で読ませてもらった。
ふ~ん、さすが上川秘書。どこで探したのかな?
T大院卒で34歳か。大学の非常勤講師をしているんだ。
教育学の研究者なんだ。さすがだな。
横の颯太を見ると、にこっとして頷いていた。
ふっ、かわいいな。
「はい、結構です。早速お越しいただいてありがとうございます。
私は今、彼の保護者になっていて、一緒に住んでいます。
この子が歌手であることはご存じですか?」
「はい。お話をいただいてすぐネットで調べました。舞台から消えて、しばらく行方不明だったと書かれていましたが……」
「はい、そうなんです。私はちょうど公演を見た帰り道で彼と出会いました。
というか、出会った瞬間に彼が倒れました。
私は佐久間総合病院の院長をしています。
夜間だったこともあって、連れて帰ることにしたのです。
見つけた時は大変身体を壊していて、なかなか普通に戻りませんでした。
今も弱いんですよね。普通の状態とは言い難いです。
恐らく完全に回復するには半年から1年くらいかかるかもしれません。
15歳で音楽事務所に預けられて、学業と仕事に励んでいたようですが、仕事がハードで栄養状態も悪くて……まあ、今はこんな感じになっています。
それで大学1年なのですが、1年間の休学届を出しています。
出してからまだ2か月半くらいですね。
でも少し元気な時もあるので、無理のない程度に復学できないかと考えています。
丸1年も間が空くと、復帰がかえって難しい気がしたんです。
どう思われますか?」
「はい、なるほど。それは先生と出会えて颯太さんもラッキーでしたね。
確かに間が空いてしまうと戻りにくいので、早めに復学されるに越したことはありません。
復学の手続きはすぐできます。
それと、体が弱い生徒にはちゃんとフォローできるよう大学も整えていますので、ご心配はいりません。
最善の、負担の少ないカリキュラムを提案しますので、それで様子を見ていただければと思います。
もちろん私も最善を尽くして応援いたします」
「颯太、こんなに言っていただいてるよ。どう?」
「はい、お願いしたいと思います」
「では、K大の文学部国文科ですね。私の方で今、おすすめのカリキュラムを作りましょうか?」
「はい、お願いします」
彼はさっとパソコンを取り出し、カリキュラムを作り始めた。
なんてタイピングが早いんだ。颯太にそっくりだな。
5分もすると、
「はい、できました。多分これ以上楽なスケジュールはないと思います。
ちょっと見ていただけますか?」
二人でパソコンを覗き込んだ。
すごい、完璧だ。
颯太がニヤッと笑って俺を見た。
「颯太、これすごいね。これだったら通えるんじゃない?」
うんうんと頷いていた。
「あと、英語と第二外国語は必修なんですが、英語の方はいかがですか?」
颯太が聞かれていた。そういえば俺も聞いたことがなかった。
どうなんだろう?
颯太は少し笑って首をひねった。
「えっと、英語は小さい時から家庭教師に習っていたのですが、それが学校の試験で活かせるかどうかは自信がないんです」
そこでいきなり先生が英語で話しかけた。
「How well do you think you can speak English? 」
少し照れながらも、
「Oh, not very well, I'm afraid 」
また先生が質問した。
「Do you think you can manage the curriculum I just proposed? 」
「I think I should be able to, probably 」
すると先生がクスクス笑って拍手をした。
「完璧です。これで随分楽に進めると思いますよ。本当に良かったです」
先生がとても嬉しそうにしていた。
俺は唖然としてしまった。
知らなかったよ〜。
ともだちにシェアしよう!

