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第72話 家庭教師

上川秘書が家庭教師を紹介してくれた。 「こちらは白石 悠先生です」 30代前半だろうか。長身で、穏やかな雰囲気の男性だった。 「初めまして、白石悠と申します。どうぞよろしくお願いします」 こちらも二人で挨拶をした。 「どうぞおかけください」ソファをすすめた。 上川秘書が「こちらはお預かりした履歴書です」と渡してくれて戻っていった。 そこへ山本秘書がお茶を持ってきてくれた。 「では履歴書を拝見しますので、少々お待ちください」 颯太と二人で読ませてもらった。 ふ~ん、さすが上川秘書。どこで探したのかな? T大院卒で34歳か。大学の非常勤講師をしているんだ。 教育学の研究者なんだ。さすがだな。 横の颯太を見ると、にこっとして頷いていた。 ふっ、かわいいな。 「はい、結構です。早速お越しいただいてありがとうございます。 私は今、彼の保護者になっていて、一緒に住んでいます。 この子が歌手であることはご存じですか?」 「はい。お話をいただいてすぐネットで調べました。舞台から消えて、しばらく行方不明だったと書かれていましたが……」 「はい、そうなんです。私はちょうど公演を見た帰り道で彼と出会いました。 というか、出会った瞬間に彼が倒れました。 私は佐久間総合病院の院長をしています。 夜間だったこともあって、連れて帰ることにしたのです。 見つけた時は大変身体を壊していて、なかなか普通に戻りませんでした。 今も弱いんですよね。普通の状態とは言い難いです。 恐らく完全に回復するには半年から1年くらいかかるかもしれません。 15歳で音楽事務所に預けられて、学業と仕事に励んでいたようですが、仕事がハードで栄養状態も悪くて……まあ、今はこんな感じになっています。 それで大学1年なのですが、1年間の休学届を出しています。 出してからまだ2か月半くらいですね。 でも少し元気な時もあるので、無理のない程度に復学できないかと考えています。 丸1年も間が空くと、復帰がかえって難しい気がしたんです。 どう思われますか?」 「はい、なるほど。それは先生と出会えて颯太さんもラッキーでしたね。 確かに間が空いてしまうと戻りにくいので、早めに復学されるに越したことはありません。 復学の手続きはすぐできます。 それと、体が弱い生徒にはちゃんとフォローできるよう大学も整えていますので、ご心配はいりません。 最善の、負担の少ないカリキュラムを提案しますので、それで様子を見ていただければと思います。 もちろん私も最善を尽くして応援いたします」 「颯太、こんなに言っていただいてるよ。どう?」 「はい、お願いしたいと思います」 「では、K大の文学部国文科ですね。私の方で今、おすすめのカリキュラムを作りましょうか?」 「はい、お願いします」 彼はさっとパソコンを取り出し、カリキュラムを作り始めた。 なんてタイピングが早いんだ。颯太にそっくりだな。 5分もすると、 「はい、できました。多分これ以上楽なスケジュールはないと思います。 ちょっと見ていただけますか?」 二人でパソコンを覗き込んだ。 すごい、完璧だ。 颯太がニヤッと笑って俺を見た。 「颯太、これすごいね。これだったら通えるんじゃない?」 うんうんと頷いていた。 「あと、英語と第二外国語は必修なんですが、英語の方はいかがですか?」 颯太が聞かれていた。そういえば俺も聞いたことがなかった。 どうなんだろう? 颯太は少し笑って首をひねった。 「えっと、英語は小さい時から家庭教師に習っていたのですが、それが学校の試験で活かせるかどうかは自信がないんです」 そこでいきなり先生が英語で話しかけた。 「How well do you think you can speak English?(英語はどれくらい話せると思いますか?)」 少し照れながらも、 「Oh, not very well, I'm afraid(いえ、大したことはないです)」 また先生が質問した。 「Do you think you can manage the curriculum I just proposed?(今提案したカリキュラムは出来そうですか?)」 「I think I should be able to, probably(多分、大丈夫だと思います)」 すると先生がクスクス笑って拍手をした。 「完璧です。これで随分楽に進めると思いますよ。本当に良かったです」 先生がとても嬉しそうにしていた。 俺は唖然としてしまった。 知らなかったよ〜。

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