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第77話 新しいホルモン剤
病院から帰ると、新しいホルモン剤を使うタイミングを考えた。
今回の薬の説明書を読むと、使い方が面倒だ。
ヒートに近い状態を誘導する、いわば疑似ヒート誘発剤。
だから本当にヒートが来た時のように、準備や対応をしなくてはいけない。
それで「普段の仕事に影響が出ないよう、週末の前日の夜に使うこと」と書いてある。
となると、今日のような土曜日が良いのかもしれない。
でも、颯太はまだ身体が完全じゃない。
明日の夜は家族で夕食を取る予定だし、影響が残ると困る。
大学も始まったばかりだ。
……よし、新しいホルモン剤は来週の週末からにしよう。
一応、前のホルモン剤ももらっている。
きつすぎるようなら戻してもいいと言われている。
中華レストランでランチを取った後、スーパーで買い物をした。
SP警護も二回目ともなれば、それなりに慣れた。
SPの動きも、もうあまり気にならない。空気のような存在になってきた。
颯太も同じらしく、似たようなことを言っていた。
要は、目に入れなくていい。
向こうが俺たちを見てくれているのだから。
「颯太、夕飯一緒に作ろうか?」
「うん、作る。何をすればいいの?」
「豚汁にしようか。すいとんかお餅を入れようよ。どっちがいい?」
「ええ……とね。焼いたお餅を二個入れたい」
「OK。じゃあ後でお餅を四個焼いてね」
「うん、任せて」
「じゃあ、ゴボウの皮をこそげ取って斜めにスライスしてくれる?」
「こそげ取るってわかんない」
「アルミホイルをぐしゃぐしゃにして、それでゴボウをこするといいんだよ」
「へえ、そうなの?」
颯太は早速、面白そうにゴボウをこすり始めた。
それから水につけながらスライス。
「今度はそれを水切りしてごま油で炒めるよ」
「はーい」
そんなふうに材料を切っていき、合作の豚汁が出来上がった。
「おいしそうだねえ。しょうがもネギもいっぱい入れたから、風邪予防にもなるよ」
「本当?」
「……多分ね」
ぷっと二人で笑った。
焼き餅入りの豚汁はとても美味しくて、身体が芯から温まった。
「これ、颯太の身体にいいんじゃないかな?」
「うん、俺もそんな気がする」
食後に紅茶を飲んだ。
デザートは、スーパーの近くのケーキ屋さんで買ったチーズケーキだ。
「これね、大学で小耳に挟んだんだよ。女の子が美味しいって言ってた」
「へえ、そうなんだ。友達になってもらえば良かったのに」
「へ?……ヤダ」急にすまして言うから、クスクス笑った。
「ねえ、今日病院で貰った新しい薬ってどんなの?見せて」
ウッ、思わずむせそうになった。
隠すのも変だし、冷蔵庫から薬を取り出して見せた。
颯太は座薬を手に取り、じっと見つめている。
「……ねえ、これ大きくない?中にケースでも入ってるの?」
「ううん。入ってないよ。そのまま入れるんだよ」
______絶句していた。
説明書を読み始め、今度は顔を赤くしている。
そっと説明書をたたんで元に戻し、俺に渡してきた。
動画に撮れば良かった。見物だったぞ。
「これ、本当にやるの?」
「うん。友永先生の処方だからね」
ちょっと衝撃だったかな。
「今日やるの?」
「どうしようかな。颯太の希望は?」
「ええっと……今日はしなくてもいいかも……」
「そう?じゃあしないよ。前の座薬もあるしね」
「うん。分かった。じゃあお風呂入る」
「よし、入ろう」
説明書を読んだだけでも偉い。
しかも嫌だとも言わない。
本当に偉いなあ。
二人で風呂に入った。
最近は恥ずかしがって嫌がるようなことはなくなった。
淡々と一緒に入って、俺が身体を洗うのをそのまま素直に受け入れている。
颯太の色白の素肌に触れるのは最高だ。
すべすべとしていて水けをはじく。
なんてきれいなんだろう。
タオルでゴシゴシと傷つけたくなくて、手の平でひたすら洗う。
一つだけ変わっていないことがある。
大事なところを洗おうとすると俺の手を掴んでストップする。
「洗ってあげたら駄目なの?」
「うん、駄目」
「残念だなあ~」ふふと笑ってる。
まだ18歳だ。いいか。
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