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第79話 CM放映
その日の午後16時、会長室へ颯太を迎えに行った。
まだ家庭教師の白石先生がいらしたので、お礼を伝えた。
「颯太の勉強の方はどうでしょうか?」
「はい、語学が得意なので、必修は楽勝ですね。簡単に単位が取れると思いますよ」
「あ、そうなんですか。それは良かったです。ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
先生は余裕を含んだ微笑で帰られた。
そこへ広報のスタッフ5人がやって来た。
「お疲れ様です。こんな時間にすみません。なかなかお会いできないので……実はCMが出来たんですよ。ぜひ見ていただこうと思って。もう放映時間も押さえてあります」
「へえ〜そうなんですか。ではぜひ見せてください」
「颯太は見たの?」
「ううん。まだ見てないから早く見たい」
パソコンからテレビに飛ばしてくれて、大画面で見る。
時間は20秒で、2種類あるらしい。
放映はゴールデンの20時台と、日中にスポットで流れる。期間は試しに1か月。
CMが始まった。
颯太の歌が流れる中、ファミリーやカップルが楽しそうに過ごす場面が続く。
“生活をミツワの技術で支える”――そういう意味なんだろう。
颯太の歌声が溌溂としていて、画面下には小さく「柚音」と芸名がテロップで出ている。
あっという間に終わった。
「これは三浦社長もご覧になったんですか?」
「はい、もちろんです。社員食堂でも流したので、全員見ています」
「へえ〜そうなんだ。颯太、どう?」
「えへへへ、なんか照れるね。でもすごく良い感じだよね?」
「すごくいいものが出来ましたね。ありがとうございました。お疲れさまでした」
「あ、いえいえ。それで、この曲を早速ミュージックビデオにしたいのですが、撮影に出演していただけないかと思いまして……いかがでしょうか?」
皆で颯太を見る。
「……えっと、俺、出来るかな?」
「ちゃんとこの前、歌って皆に聞かせたんだから、出来るさ」
「うん、じゃあ、自信はないけどやってみようかな?」
「どれくらいの時間で出来るんですか?」
「今回は負担をかけないようにスタジオで撮るので、1日あればできます。早速ですが、今週の木曜日ではいかがでしょうか?」
「颯太、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「ではよろしくお願いします」
衣装も用意してあるらしい。
つまり、ほとんど出来上がってる感じだな。
手回しが良くて笑ってしまう。
まあ……確信があったんだろう。
社員たちの好きにしてもらおう。
放映時間を教えてもらって家族に知らせた。
楓と母が興奮したらしい。笑えるな。
颯太が芸能人だと改めて確認したってことかな?
***
木曜日になった。
この日は大学がない。
朝一でスタジオに行ったので、午後の家庭教師は休みにしてもらった。
何時に終わるか分からないからだ。
結局、12時までには帰って来た。
何回か歌ったが、あとは編集の力だそうだ。CGを多く入れるらしい。
「颯太、お疲れ様。どうだったの?」
ニヤッと笑って俺に抱きついてきた。
「それが返事か?」
「うん」と頷く。
「じゃあ、ご飯を食べに行こう。それから家に帰ってもいいし」
「あのね、この前の公園の近くに植物がいっぱいのカフェがあったでしょう? あそこでランチしたい」
「うん、わかった。そしたら今日はもう帰ろうか? 勉強もないしさ」
「うん、帰りたい」
そういうわけで、幸せな午後を外で過ごすことにした。
駒公園の道路沿いにあるカフェは、店のまわりに植物がいっぱいで、パーゴラの下にはテーブルや椅子が並んでいる。
ランチのひと時にダークスーツのSP達は目立つんだけど、まあもういい。
颯太は外で食べたいというので、パーゴラの下でハンバーガーやポテトを食べた。
すごくうまかった。日差しが明るくて、まぶしいくらいだ。
「食べたら、少し散歩しようか?」
俺たちのスーツ姿はちょっと浮いているけど、他のテーブルのお客さんが犬を連れていた。
「ちょっと待って、犬と遊んできていい?」
真っ白なマルチーズ。子犬がかわいくて、頭を撫でたり抱いたり。
飼い主さんも「どうぞ」と触らせてくれた。良かったな。
どっちがかわいいんだか……そりゃ颯太の方だよ。
帰りはずっと手を繋いで車に乗った。
「先生、お昼寝は先生と一緒に寝たい」
SPに聞かれた!
シーと人差し指を鼻に当てた。
颯太はぺろっと小さく舌を出してはにかんだ。
しょうがないから、また手を繋いだ。
かわいすぎて反則だろう。
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