81 / 101
第81話 甘えんぼとMV
今日は金曜日。
颯太はどこか心残りな表情で振り返りながら大学へ行った。
俺は病院だ。徒歩5分だから歩いて向かう。
郵便物やメールのチェック、売り上げの推移、職員からの提案書、患者さんからの投書箱──
いつものように確認していく。
理事の父とも少し話をしてCMの感想を聞いた。
「やっぱり歌手なんだねえ。なかなか良かったじゃないか」
そう褒めていた。
気づけば時間はあっという間に過ぎ、10時半には帰宅した。
ランチは何にしようか。
冷蔵庫を覗いて、和風パスタに決めた。
キャベツ、玉ねぎ、キノコ、ウィンナーを炒めて、最後に海苔を散らす。
醤油も少し入れたから、和風の感じは出ているかな。
そこへ、時間通り颯太が帰って来た。
SPにお礼を言ってドアを閉めると──
待っていたようにピターッと張り付いてきた。
「寂しかったのか?」
うん、と頷く。
「手を洗っておいで。パスタが冷めるよ」
二人で手を合わせて食べる。
スープも和風で、豆腐とねぎを入れた。
デザートの果物を食べ、食後のコーヒーも飲んだ。
昼寝の時間なんだけど、今日はあまり時間の余裕がない。
台所の後片付けをしていると、そっと寄ってきて、
「ねえ、先生、一緒に寝てぇ〜」
と洋服の端をつまんで言う。
声からして完全に甘えている。
「うん、そうしよう」
一緒に横になると、昨日のことがあったからなのか、
颯太はいつも以上に甘えてきた。
うれしいんだけど、なんというか......、
今度は俺をあまり甘やかさないでという気持ち......。
もうセーブが利かなくなる。
この駄々洩れの可愛さをどうしたらいい?
そして横になると、俺の手を自分の中心に持って来る。
当たり前のように‥‥‥。
「早く__」って催促だ。うれしすぎる。
昨夜は前のホルモン剤を入れたからか、すごく気分が高揚しているようだ。
随分効果が出てきている。
もちろん颯太が気持ち良くなって、すーっと眠りにつくまで付き合う。
俺も眠りそうになるけど、ダメ、この時間が勿体ない。
颯太の寝顔をもっと見つめていたい。
そうだ、アラームをかけないとね。
午後は家庭教師の勉強がある。
問題は今夜だ。
実はまだ、新しい薬の量について迷っている。
今夜使って、土曜と日曜で落ち着くのか?
月曜の朝、大学に行けるだろうか......。
こればかりはやってみないと分からない。
悩んでも仕方がない。
よし、やはり半分にしておこう。
うん、決めた。
それで土曜までに収まるなら、次回は全量を使おう。
***
16時に颯太を迎えに行くと、広報スタッフが会長室にやって来た。
「ミュージックビデオが出来たので、ぜひご覧ください」
随分早いね。撮影したのは昨日なのに。
またパソコンからテレビに飛ばして、大画面で見る。
「ええ? こんなに俺ってカッコ良かったかな?」
颯太が目を輝かせて喜んだ。
俺だって、あんぐりしたまま見とれてしまった。
「すごいねえ。本当にカッコ良いよ。歌もいいしね。編集がうまいねえ」
「恐れ入ります!!」
広報スタッフ5人が声を揃えた。
本当にこの5人は統率が取れている。感心するよ。
そして、律義に電話番をしているであろう加納課長も、いい人だ。(笑)
ファイルを受け取り、携帯から楓に送った。
楓に送れば家族全員が見るからね。
「もう三浦社長からもOKを頂いているので、早速この後にUPいたします」
「はい、分かりました。皆さん、本当にお世話になりました」
颯太も、
「ありがとうございました。本当にうれしいです!!」
と頭を下げた。
ー*-*ー
筆者より
都合により、3月5日より3月17日まで1日3話更新します。
よろしくお願いします。
ともだちにシェアしよう!

