84 / 101
第84話 家族会議
実家に戻ると、みんなが待っていてくれた。
俺が「一大事で大至急の相談がある」とだけ伝えていたせいで、
「兄貴、どうしたんだよ?」
淳一が心配そうに言った。
「まあ、俺は大体わかってるけどね」
父は余裕の表情だ。さすがだ。
「まあ、あなただけが分かるんですか?」
母がすでに切れかけている。
「みんな、ごめんね。休みのところを呼び出して。
前から言ってたことなんだけど……俺、近いうちに颯太と結婚するよ。
それで、俺は立花家に入ろうと思う。
長男なのに申し訳ないけど、父さんと母さんに許してもらいたくて来ました」
「は?」母が呆然とした。
「まあ、しょうがないだろうなあ。颯太はたった一人で立花を背負っていくんだ。
まだ18歳なのに、あの大会社だ。そりゃ大変だろう。結婚するなら、そうなるだろうな」
父はすでに理解していた。
「はあ? あなた、それでいいんですか?」
やっぱり母が怒った。
「なるほどね。父さんがそう言うならしょうがないんだね」淳一。
「えー、兄貴も覚悟すごいねえ〜」楓が感心している。
そんな大したことじゃないんだけどな。
「それで病院はどうするの? 放棄するの?」と淳一。
「病院というか、佐久間家は淳一が当主になって、病院と家督を継いでほしい。
俺もできるだけ手伝うから」
「おいおい、ちょっと待て。その話は俺がする」
父の出番だ。
「まず陽一は立花家に養子に入る。結婚届はその後でいい。
それから陽一は今のまま院長をやり、俺が危うくなったら理事をやってくれ。
それは今までどおりだ。
ただし、陽一が理事になったら、淳一は院長になって“人の上に立つこと”を学んでほしい。
これはなかなか大変なんだよ。
今すぐ院長になるには若すぎるし、下の者がついてこないだろう」
「はい、分かりました」
淳一が神妙に答えた。
「それで、陽一が理事になったら、淳一に院長の仕事を教えてやってほしい。
結局最後は淳一が家督を継ぐことになる。それは間違いない」
「はい、分かりました」
俺と淳一が声を合わせた。
「母さん、戸籍が変わっても息子であることは変わらないし、遠くに行くわけでもない。
他は何も変わらないんだから、嘆くことはないよ」
俺はそっと声をかけた。
ふと見ると、もう母は泣いていた。
楓も同じような顔をしている。
「いいか、俺がいなくなっても、病院は法人化しているから困ることはない。
それに保険にもたっぷり入っているから相続税も大丈夫だ。
家の土地はみんなの名義で分散してるから、税金は最低限で済む。
ただ現金はあまり期待するな。自分で稼ぐんだ。
お前たちは十分に稼げているだろう?
母さんも嘆くなよ。子どもたちがずっと助けてくれるはずだよ」
父が優しく言った。
「そうだよ。母さん、立花の名前になっても俺はここの息子なんだから、ずっと助けるよ」
俺は精一杯の声をかけた。
「うん……わかった。ありがとう」
母は涙をぬぐい、ようやく気持ちを持ち直したようだった。
すると楓が現実的な質問をしてきた。
「ところで兄さん、最後はどこに住むつもりなの?」
「そうだな、確かあのマンション、まだ貸してる分があるぞ」
父が思い出したように言う。
「まあね。颯太の生家には家政婦さんが4人と、運転手と執事がいる。
颯太が15歳の時から5年間、使用人たちだけで暮らしているんだ。
今のままでは申し訳ないと思ってるよ。
多分、颯太が結婚したら戻って来るんじゃないかと、みんな期待してるんだと思う。
今は颯太にとってつらい思い出の家かもしれないけど、
いずれ颯太が身ごもってくれたら、その時は戻れるんじゃないかな。
産前も産後も養生しないといけないし、子育ても家政婦さんたちが喜んで協力してくれると思
うんだよね」
「ああ、それはいいよね。安心というか、最高の環境じゃない?」
楓が言う。
「じゃ、兄貴はあのマンションどうするの? 一等地の最上階で高級物件だもんね」
淳一が聞いてきた。
「あれを買う時は、半分父さんに資金を借りたんだ。でも今年中に全額返せると思う。
そうしたら完全に俺の名義になるだろ?
で、颯太の家に移ったら淳一に貸してやるよ。ただし家賃はしっかりもらうよ。
だからそれまでにオメガのかわいい嫁さんでも探しておけよ」
「ええ〜待ってよ! 私だってあのマンション狙ってたんだよ!」
楓が抗議する。
「おいおい、ここで揉めるな。楓は結婚するまではこの家にいなさい。外に出たら危ない。
それに結婚したら相手が家を用意するかもしれないだろう?
だからそれまでは家にいた方が安全だよ」
「そうだよ。父さんの言うとおりだよ」
俺も同意した。
「兄さん、颯太といつ子ども作るつもりなの?」
淳一、完全にマンション狙いだな。
笑いそうになるのを堪えた。
「う〜ん、まずは大学の卒業のめどが立ったらだね。だからあと4年かな。うまくいけばね」
「わかったよ。俺も早く嫁さん探しておかないとやばいな……」
淳一がぼそっと言う。
「オメガの婚活にでも行けよ。医者ならモテモテだよ」
余裕で言ってやった。ふふふ……。
ともだちにシェアしよう!

