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第85話 立花家を背負って
月曜日、颯太は大学へ行った。
でも俺には、どうしても今日やらなければならないことがあった。
この日は病院へは行かず、役所へ向かった。
申請書の用紙と戸籍謄本を取るためだ。
その足で病院に戻り、父にサインをしてもらう。
家に帰ると記入を済ませ、実印を押した。
さらに、遺産の遺留分を請求しないという確約書を作り、
それにもサインして実印を押した。
よし、これで大事な書類は揃った。一段落だ。
颯太が帰ってきた。
いつものように、俺にピタッと張り付いてくる。
「颯太、大事な話があるんだ」
「え? なに?」
その一言で、一気に不安な顔になる。
俺は先ほど書いた書類を見せた。
颯太は一枚一枚、丁寧に確認していく。
「これって……いいの? 先生も立花になってくれるの?」
「うん、そうだよ。颯太を独りぼっちにできないだろう?
颯太が佐久間の苗字になったら、立花が途絶えてしまう。
子どもも立花の子どもにしないとね」
「ありがとう……」
それだけで泣き出した。
抱きついたまま、しばらく離れない。
「もう泣かなくていいよ。これからはずっと一緒だから。
この書類はあとで山川さんに預けておくつもりだよ。
で、明日にでも戸籍を移して、あさってには結婚しよう。
番はそれからゆっくりでいいからさ」
うんうんと頷きながら、まだ泣いている。
「ただ、発表のタイミングがあるからね。それは山川さんと相談だよ」
昼食を済ませると、颯太を寝かせた。
俺にくっついたまま離れない。
まあ、今に始まったことじゃないけど、
微笑みながら眠る顔を見ると胸が温かくなる。
事前に山川弁護士には事情を説明し、
発表のタイミングを相談したいとメールしておいた。
上川秘書と広報にも共有をお願いしてある。
これから彼らは大事なキーパーソンになる。
ミツワの公式サイトにも発表しないと、
養子縁組の情報はすぐに漏れる。
結婚も同じだ。
遺留分を放棄すると最初に言っておかないと、
ハチの巣をつついたような騒ぎになる。
俺にも権利が発生してしまうからだ。
余計な騒ぎには巻き込まれたくない。
婚姻届を出しただけでも、マスコミにスクープされるのは確実だ。
恐らく会社に行けば、もう相談は済んでいるだろう。
皆エリートだから仕事が早い。
16時、会長室に入った。
白石先生は帰った後だった。
秘書室と広報スタッフ、そして山川弁護士がすでに揃っていた。
そして第一声が、
「ご結婚おめでとうございます。立花家に入ること、本当にありがとうございます」
……声が揃ってる。練習したのか?
颯太と顔を見合わせ、思わずクスクス笑った。
俺は山川さんに書類を渡した。
彼は一枚一枚丁寧に確認し、深く頷いた。
「確かにお預かりいたしました。
前会長がどれほどお喜びになるでしょう。
先ほどメールでお伝えしておきました」
「発表の手はずはどうなっていますか?」
「まず養子縁組が先で、今日の夕方に提出します。
明日は朝一で婚姻届を出します。
会社の公式サイトには、明日の11時に養子と婚姻の両方を発表します」
広報が続けた。
「颯太さんの婚姻の発表は、柚音の公式HPでも同じく11時に行います。
お相手の名前を出す必要があるため、御養子になられた件も同時に発表いたします」
「そうですか。お手間をかけました。ありがとうございます」
「皆さん、本当に俺たちのためにありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします」
颯太もきちんと挨拶できた。
「そうだ、颯太。小林さんたちにも伝えた方がいいよね?」
今さら気づいた。
「うん、そうだね。あとで行こうかな?」
「あ、あ、あー……ごめんなさい。
小林執事にはすぐ知らせてしまいました。
大喜びされてましたよ」
弁護士も気が早いな。
颯太とまたクスクス笑った。
「でも颯太、今からご挨拶に行こうか?」
「うん、行く」
「じゃあ、二人でご挨拶に行ってきます。今日はこれで失礼します」
部屋を出る時にみんなが拍手してくれた。
なんだか照れくさいけど、悪くない気分だ。
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