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第87話 結婚の祝福

翌日火曜日、朝から二人で会社へ向かった。 今日の11時には、俺が立花家の養子になったことと、颯太と結婚したことが世間に発表される。 朝ここへ来た時から、机の上のネームプレートが変わっていた。 「立花陽一」──なんだかまだ慣れない。 会長室に入ると、秘書室のスタッフ達と山川弁護士から祝福され、花束をもらった。 そこへ上川秘書が来て、 「重役の皆さまがお祝いを申し上げたいと会議室でお待ちです」 とのこと。 「先生、なんだか緊張しちゃうね」 颯太も同じ気持ちらしい。 上川秘書に案内されて会議室へ入ると、社長や重役たちがずらりと並んでいた。 壇上に上がると、 「立花陽一先生、立花颯太名誉会長、ご結婚おめでとうございます」 三浦社長の声とともに、一斉に拍手が起きた。 また花束をもらってしまった。 どうやら何か喋らないといけないらしい。 静かに待たれている。 「皆さん、ご丁寧に祝福を頂いて、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします」 二人で頭を下げると、秘書が頷いたのでそのタイミングで退室した。 拍手で送られてしまった。 「ああ~緊張の連続だね」 10時になると、広報とスタッフたちが打ち合わせのためにやって来た。 全員が揃うと、 「立花院長先生、颯太さん、ご結婚おめでとうございます」 またお祝いの言葉と花束。 もう完全にお祝いラッシュ。 広報スタッフの皆さんからの気持ちだ。ありがたい。 しかしミーティングが始まったのにいつもの溌溂さがない。 「どうぞ、お話しください。俺の仕事のこと?」 「はい、実はそうなんです。 CM効果といいますか、ミュージックビデオを発売してから、颯太さんへの仕事の依頼が殺到していて……毎回断るのが一筋縄ではいかなくて」 「へえ~そうなんだ。それってどうすればいいんですか?」 「一度受け始めると、次々に依頼が来てしまうんです。 CMにも出て、MVも発売されたので、もう仕事を再開したと思われているようで……どうしましょうか?」 「ああ、なるほどね。出演の仕方が半端だったんだね。 颯太はどう思うの?」 俺が代表して聞くと、颯太はしばらく考えていた。 「俺は前みたいに忙しくなるのは嫌だ。今の生活が大事だし、大学も絶対に卒業したい。だからネットで時々発表するだけに絞りたいです。どこかに出演したりはできません」 「じゃあ、颯太が自分の言葉で文書にして、HPで発表すればいいんじゃない?」 「うん、そうする。じゃあ俺が書くから、それを載せてもらえますか?」 「はい、承知しました」 これで全員が納得して広報に戻っていった。 「颯太さんも大変だねえ。売れまくってるもんね、勿体ない気がするなあ~」 「もう~」 胸をゲンコツでポンポコ叩かれた。 「颯太、今すぐ書いてメールで広報に送ったら?それで早いけどもう帰ろうよ」 「うん、それがいいね」 颯太がパソコンに向かって、たった10分。 すぐに書き上げて広報に送った。 「じゃあ、帰ろうよ」 「うん、でもね、なんか物足りない」 「なに?」 「ちょっとザワザワしたとこに行きたい。美味しいおやつを買っておきたい」 ふ~ん、そういう気分なんだ。 「じゃあ、どこに行くかな?上川さんに聞いてみようか?」 電話で聞いてみると、近くの百貨店の催事場で「全国の菓子祭り」をやっているらしい。 「行ってみる?」 「うん、行きたい。なんか買いたいよ」 SPを連れて、ついでにお昼ごはんでも買って帰るか。 近い場所なのに、SPの先導で車移動になった。 地下駐車場から催事場まで、サービスの女性が案内してくれてノンストップ。 SPがいるから連絡を受けたのだろう。 催事場に入ると、ふわっと甘い匂いが広がっていた。 「何の匂いだろうねえ?」 颯太がクンクン鼻を鳴らしながら匂いの元を探している。 まったく、ワンコか。 「あ、これだ!」 それは、まったりとした北海道のあんこを練る匂いと、たい焼きを焼く匂いだった。 「先生、超うまそうだよね?俺すぐ食べたい」 「じゃあ、一個買ってすぐ食べてみれば?」 買ってやると、その場でかぶりつく颯太。 子供か。 「うま~い!!先生も食べてみて。俺3個くらい食べられる」 「ねね、花束のお礼に皆にお土産で買ってあげたいんだけど、どうかな?」 「まあ、それはいいけどね。でも秘書室だけとか広報だけにすると、きっとみんな羨ましがると思うよ。いっそ全員にあげたら?」 「え?全員って……何個になるの?」 「多分、700人くらいだと思うよ」 「ええ?それって全部でいくらになる?」 俺たちが目の前で話しているのを聞いて、 たい焼き屋さんが面白がって「計算しましょうか?」と言ってくれた。 「税金を入れて計算すると、700個で161000円ですね」 「ええ?どうしよう。そんなにするんだ」 「お金なら貸してあげるよ。頼んじゃえば?どうせ御礼をしないといけないでしょう?会長の株が上がると思うけどねえ~」 「わかったよ!買うよ。みんなにお礼をしないといけないもんね」 颯太は必死な険しい顔になった。 こんなにお金を使ったことが、恐らくないんだろう。 そこへ、俺たちの会話を聞いていた別のおじさんが対応してくれた。 「ここでは何なので、ちょっと隅の方に行きましょうか?」 通路の隅に案内され、 「はじめまして。私はたい焼き屋の営業の望月と申します」 と名刺をくれた。 「颯太、名刺」 颯太が慌てて財布から名刺を出す。 名刺を見て、「えー?」と颯太の顔を見て、また名刺を見て、また顔を見て── 二人でぷーっと吹き出してしまった。

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