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第88話 めでたい!たい焼き屋さん

颯太の名刺だけだと心もとない様子なので、仕方ない。 俺も古い名刺だが、ミツワの佐久間特別顧問の名刺を出した。 「今日結婚したので、俺も立花陽一になったんですけどね」 「はい、あの……あのミツワの名誉会長さんなのですか?」 「はい、そうです。間違いありません」 俺が代わって答えた。もう俺が話を進めよう。 「今日結婚したので、皆さんが花束をくださったんですよ。 それで御礼にこの美味しいたい焼きをあげたいと会長が言ったので、全員にあげた方が良いよとなったわけなんです」 「ああ、そうなんですねえ」 望月さんは少し首をかしげた。 「700個となりますと、うちのスタッフ二人で焼いても4時間はかかるんですよ。当然この催事場では間に合いません。 でも私たちは全国を焼きながら回っているのでね、提供できるとしたら──催事が今日で終わるので、明日の移動日にお伺いして、そこで焼かせていただいて700個作るしかないんです。 しかも材料を急遽宅急便で取り寄せないといけませんし、明日やるなら今夜の宿も確保しないといけない。 たい焼きの代金だけではとても終わらない話なんです。 スタッフが間に合わないなら本店から来ますので、その交通費も往復でかかります。 どういたしましょうか?」 颯太の目が泳いだ。 「俺どうしたらいいの?」とヘルプを求めてきた。 「だから、最初に“皆に食べさせてあげたい”と思った気持ちを大事にすればいいんじゃないの? お金なら貸すからさ。もう値段の問題じゃないけどね」 「うん、わかった、そうする」 「ではお願いしますよ。多分、うちの社員食堂で焼いてもらう感じになると思いますが……ちょっと秘書に連絡するので、待ってください」 上川秘書に連絡すると、 「食堂の責任者が応対しますので、その方に来てもらえますか?」 と言われた。 「なんか、うちの食堂の責任者が会ってお話したいそうです。会社の方に来れますか?徒歩圏ですが、今行けるなら、うちの車でご案内しますよ」 「ああ~待ってください、今相方に言ってきますから」 望月さんは走って行き、すぐ戻ってきた。 「はい。すみません。ぜひ伺わせていただきますので、よろしくお願いします」 「では、行きましょう」 またエレベーターをノンストップで降り、SPの先導車に乗ってもらった。 望月さんは目を丸くしていて、ちょっとおかしかった。 会社に着くと、入り口前で食堂の責任者が待っていた。 「お手数をかけてすみません。 颯太名誉会長が社員全員にたい焼きを1個ずつあげたいんだそうです。 お祝いの言葉をいただいたのでお返しだそうです。 必要な費用は全額会長が支払いますので、700個くらいかな? うちの食堂で焼いてもらいたいんですよ。 面倒を見てあげて欲しいんです。お願いできますか?」 「はい、かしこまりました。ご結婚されたんですね。おめでとうございます。 めでたい!で、たい焼きですか?いいですねえ~。 どうぞお任せください。お引き受けいたしますのでご安心ください」 「じゃあ、望月さん。お世話になりますが、後はよろしくお願いしますね」 「はい、かしこまりました」 俺は1階のATMで現金を40万おろし、二人で会長室に戻った。 すぐに上川秘書がやって来た。 「一体、どうなさったのですか?」 目を丸くしている。 俺は颯太をつついた。 「えっとね、甘いものが食べたくなって教えてもらった催事場に行ったら、すごく美味しそうな匂いがしてね、たい焼きだったんですよ。 それで一個食べたらめちゃうまくて、これをお土産に秘書室と広報に買いたいって言ったらね、先生が“社員全員にあげたら”って言うのでこうなったんですよ」 上川秘書はクスクス笑った。 「もう~伝説になりそうですよ。本当にありがとうございます。 今は食堂の担当者が対応していますが、私も応援に行ってきますのでご安心ください」 「それで、一応お金を用意したのですが」と言うと、 「あとで結構です」 と言って部屋を出て行った。 「颯太、伝説だってよ。どうする?」 二人で笑いが止まらなくなった。 「話を聞きに行こうか?」 「うん、行こう」 上川さんに電話すると、今は食堂にいるそうだ。 「今行きます」とだけ言って、急いで向かった。

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