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第89話 めでたい焼き!配る

 食堂に着くと、まさに話し合いの最中だった。 今夜の宿泊場所をどうするか、明日はどう動くか──。 本来なら今日は催事を撤収して、そのまま次の開催地に移動する予定だったらしい。 本店のスタッフと交代して1日休み、また応援に行って交代、というシフトで動いているとのこと。 そこへうちの依頼で休みがつぶれ、さらに次の設営の調整もしなければならない。 本店と連絡を取り合いながら、綱渡りのように予定を組み直している最中だった。 確かにこれは伝説級の話だ。 だから宿泊費と往復の交通費を請求されるわけだ。 ホテルを当日にキャンセルすると100%のキャンセル料がかかる。 そのうえ本店から人を呼び、そこに泊まらせる必要もある。 「う~ん、だよねえ……」 と俺は颯太の様子を見る。 颯太は聞けば聞くほど、なんだかシュンとしていた。 さらに、宅急便で材料を送ってもらって受け取る場所、 コンロの設置場所、 焼くスタッフの人数、 材料の保管場所、 一泊二日のトラックの置き場所、 たい焼きの正確な数、 今夜の宿泊ホテル──。 本店との連絡は続いていた。 颯太は、ここまで大変になるとは思わなかったんだろう。 でも、いい勉強だ。 だって、まだ会長としての仕事をしていないんだから。 こういう経験をたくさん積んでくれたら、それでいい。 たい焼きは美味しいしね。 本当に“めでたい”話だ。最高だ。 結局、ホテルは表の高級ホテルを秘書が用意してくれた。 「え?高級ですね。駐車場もずっと無料でいいんですか?」 望月さんは喜んでいた。 ホテルの部屋は、会社の接待用に確保しているものがあるらしい。 へえ、そういうこともあるだろうね。 俺は秘書に、 「たい焼きは自宅用にもほしいので、15個くらい余分にお願いします」 と頼んだ。 颯太が初めてにこっとした。 「颯太、生家にも持って行ってあげたら喜んでくれるよ。うちの家族にも持って行くけどね」 うんうんと頷いた。 そして翌日、水曜日。 食堂でたい焼きを焼いてくれた。 颯太は大学に行っているので、代わりに俺が見守っていた。 ビッグイベントだからね。 今日は颯太も大学から直接会社に来ることになっている。 秘書室が、焼き上がり時間に各部署から代表者が取りに来てくれとプリントを回したそうだ。 「焼きたてを食べてほしいので、仕事時間でも食べて良いです」 という会長からのメッセージ付き。 笑うなあ~。 颯太が可愛くてたまらない。 焼き立てじゃなければ、冷凍を送ってもらっても良かったんだからね。 颯太が大学から帰ってくると、真っ先に食堂に来た。 「まだ終わらないの?」 「見てると大変だよ。職人さんが汗だくだもん」 まだ焼き終わらないので、今日の昼食は食堂で食べることにした。 社員たちが昼食に来て俺たちを見ると、 「ごちそうさまでした!すごく美味しかったです!」 と颯太が全員に声を掛けられていた。 颯太もにっこにこだ。 たい焼きでこんなに社員と触れ合えるなんてね。 颯太、すごいよ。 やがて、職人さんが注文分を焼き上げた。 最後に挨拶に来て、 「今回は本当にありがとうございました。ミツワさんの本社で700個以上も焼けるなんて、本当に名誉なことでした。感謝いたします」 「こちらこそありがとうございました。本当にお疲れ様でした」 食堂の責任者も見守っていて、一緒に見送った。 「さあ、颯太、部屋に帰ろう」 「うん」 会長室に戻ると、上川さんが請求書を持ってきた。 俺は現金で渡した。 「俺にも見せて」 颯太が請求書を見た。 目を真ん丸にしている。 そこには36万ほどの額が書かれていた。 でも、それでもサービスしてくれたと思う。 だって北海道の名店だ。送料も交通費も高い。 「あのね、颯太、分割払いでいいよ。10回払いにしようか?」 「え、なんで?お金をおろしてくるよ」 「ダーメ。分割払いにして、毎月銀行と同じ利子をつけて払ってください。これは勉強です」 「なんで利子がいるの?」 「社員はね、みんな何かしら借金をして働いているの。 車だったりマンションだったりね。 そうやって生きてるんだから、颯太も一度くらいは借金を味わうのは勉強だよ。 でないと皆の切実な気持ちが分からない人になるでしょう?」 「……先生もなんか借金してるの?」 「そうだよ。今のマンションを買うのに、半分は父に借りたんだよ。2億くらい借りたよ。 だからいまだに返してるんだよ。みんな同じだよ。みんなにも聞いてみるといいよ」 「わかったよ。じゃあ、10回払いにしてください。お願いします」 「はいはい、いいですよ。給料日に現金でくださいね」

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