92 / 116
第92話 立花になるということ
朝食後は、さっさと会社に行く支度をした。
「颯太、今日は役所や銀行回りなんだけど良いかな?」
「うん、いいよ。広報はどうしようかな?」
「電話して、用があるかどうか聞いたら?」
「うん、メールしとくよ」
「あ、俺も上川さんにメールしとくわ」
音声メモで送信した。
SPには朝一で今日のコースを話しておいた。
携帯でプリントを写真に撮って送信していたから、きっとOKだ。
「先に役所に行くよ」
「出発!」颯太の声がかわいい。
SPに挨拶して、さっさと乗り込んだ。
ああ~こういう時は本当に楽ちんだ。
朝の役所はスイスイだった。それでも全部終わらせるのに30分。
次に警察署。免許の名前変更だ。ここで20分。
それから銀行が3か所。混んでいた。
しかし、うちの病院の担当者とちらっと目が合った。
「お早うございます。御用がありましたか?」
事情を話すと、
「電話で言っていただければ、こちらから伺いますよ」
と言ってくれた。
うわ~今まで待っていたのが勿体なかったな。
でも特急でやってくれた。
そうすると、他の銀行も同じことを言うかな?
試しに、あとの2行に電話した。
ここも病院の取引先だった。
どちらも「伺います」と言ってくれた。
なんだよ~。
待ってる間に郵便局が近かったので、
郵便物の名前変更届を出した。
よし、午前はこれでいいことにした。
なんせ銀行の通帳が新しくならないと、
どこも連絡ができない。
「颯太、お待たせ。会社に行こう」
「はい、先生……ごめんね、
苗字が変わったせいで苦労かけちゃって」
「ふっ、苦労じゃないでしょう?」
「一緒になるということは、こういうことだよ。
二人になったんだから良いじゃない?」
今にも泣きそうな表情になった。やばい。
「さあ、行くよ」
手を繋いだ。
会社に着くと、もう12時近かった。
上川秘書に用事を聞いた。
「山川先生からお話があったようですよ」
電話すると「すぐ行きます」とのこと。
隣同士なんだけど、向こうは座る椅子が1個しかないんだよね。
「お早うございます。実は院長のマンションの件なのですが、
権利書の苗字の書き換えを致しましょうか?」
「本当ですか?わ~助かります」
「いえいえ、お安い御用ですよ。
他に必要なことがあったら何でも言ってください」
「あ、マンションの管理組合にも言わないといけないんですよね。
駐車場の契約書もなんですけど」
「はい、どうぞ。書類をお預かりしますよ」
それでファイルケースから戸籍謄本と印鑑証明を出して渡した。
「ただ、新しい銀行の通帳がまだできていなくて、
銀行が混んでいて、あと2~3日はかかりそうなんですよ」
「はい、いいですよ。__あのう」
俺のファイルケースをちらっと見ていた。
「よろしかったら、ファイルケースごとお預かりしましょうか?
できるところはやっておきますよ」
「本当ですか?わー助かります。ありがとうございます」
よし、これで半分くらい終わったような気がした。
それから父に電話した。
俺が話す前に父が言った。
「手続きは進んでいるか?話しておきたいことがあったんだが、
病院関係の変更はできるだけやっておいた」
「うん、ありがとう。印鑑証明と戸籍謄本は持って行くけど、
通帳がまだ2~3日はかかるらしいんだよね。銀行が混んでてさ」
「あ、もう持って来てくれたよ。今しがた担当者が来たんだよ」
「ええ?すごい早いね。じゃあ、ランチの後で行くよ」
「颯太、ごめんね。来たばっかりだけど、ご飯に行こうか?」
「うん、先に病院に行っても良いよ。
あそこでもご飯を食べられるでしょう?」
「あ、そうだった」
山川先生に渡したファイルケースから、
戸籍と印鑑証明を3枚ずつ出した。
そして病院に行くことを父に伝えた。
あ、秘書にも言わないと。
「颯太、ごめんね。今度こそ病院に行くよ」
なんとも落ち着かないドタバタだった。
あとどれくらい続くんだ?
病院に行くと、理事室に淳一と楓がいた。
「はーい!颯太、元気?」
楓とハイタッチをしていた。
「ほら、お前たちのために寿司を取っておいたぞ」
颯太と顔を見合わせて、にんまりした。
「父さん、すみません。なんかバタバタなんだよね」
「そうだろう。簡単にはいかないさ。
まあ、3カ月もすれば落ち着くよ」
「ほら、お前の白衣とスクラブに、IDカードとデスクプレートだ」
「え?もう?」
「そうさ。どうせこうなると思ってたよ。
だからとっくに前から用意してたのさ」
「お義父さん、本当にありがとうございます」
颯太がそう言って、泣き出してしまった……。
もう~、颯太を抱きしめた。
でも俺もなんだか滲んできた。
ともだちにシェアしよう!

