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第92話 立花になるということ

 朝食後は、さっさと会社に行く支度をした。 「颯太、今日は役所や銀行回りなんだけど良いかな?」 「うん、いいよ。広報はどうしようかな?」 「電話して、用があるかどうか聞いたら?」 「うん、メールしとくよ」 「あ、俺も上川さんにメールしとくわ」 音声メモで送信した。 SPには朝一で今日のコースを話しておいた。 携帯でプリントを写真に撮って送信していたから、きっとOKだ。 「先に役所に行くよ」 「出発!」颯太の声がかわいい。 SPに挨拶して、さっさと乗り込んだ。 ああ~こういう時は本当に楽ちんだ。 朝の役所はスイスイだった。それでも全部終わらせるのに30分。 次に警察署。免許の名前変更だ。ここで20分。 それから銀行が3か所。混んでいた。 しかし、うちの病院の担当者とちらっと目が合った。 「お早うございます。御用がありましたか?」 事情を話すと、 「電話で言っていただければ、こちらから伺いますよ」 と言ってくれた。 うわ~今まで待っていたのが勿体なかったな。 でも特急でやってくれた。 そうすると、他の銀行も同じことを言うかな? 試しに、あとの2行に電話した。 ここも病院の取引先だった。 どちらも「伺います」と言ってくれた。 なんだよ~。 待ってる間に郵便局が近かったので、 郵便物の名前変更届を出した。 よし、午前はこれでいいことにした。 なんせ銀行の通帳が新しくならないと、 どこも連絡ができない。 「颯太、お待たせ。会社に行こう」 「はい、先生……ごめんね、 苗字が変わったせいで苦労かけちゃって」 「ふっ、苦労じゃないでしょう?」 「一緒になるということは、こういうことだよ。 二人になったんだから良いじゃない?」 今にも泣きそうな表情になった。やばい。 「さあ、行くよ」 手を繋いだ。 会社に着くと、もう12時近かった。 上川秘書に用事を聞いた。 「山川先生からお話があったようですよ」 電話すると「すぐ行きます」とのこと。 隣同士なんだけど、向こうは座る椅子が1個しかないんだよね。 「お早うございます。実は院長のマンションの件なのですが、 権利書の苗字の書き換えを致しましょうか?」 「本当ですか?わ~助かります」 「いえいえ、お安い御用ですよ。 他に必要なことがあったら何でも言ってください」 「あ、マンションの管理組合にも言わないといけないんですよね。 駐車場の契約書もなんですけど」 「はい、どうぞ。書類をお預かりしますよ」 それでファイルケースから戸籍謄本と印鑑証明を出して渡した。 「ただ、新しい銀行の通帳がまだできていなくて、 銀行が混んでいて、あと2~3日はかかりそうなんですよ」 「はい、いいですよ。__あのう」 俺のファイルケースをちらっと見ていた。 「よろしかったら、ファイルケースごとお預かりしましょうか? できるところはやっておきますよ」 「本当ですか?わー助かります。ありがとうございます」 よし、これで半分くらい終わったような気がした。 それから父に電話した。 俺が話す前に父が言った。 「手続きは進んでいるか?話しておきたいことがあったんだが、 病院関係の変更はできるだけやっておいた」 「うん、ありがとう。印鑑証明と戸籍謄本は持って行くけど、 通帳がまだ2~3日はかかるらしいんだよね。銀行が混んでてさ」 「あ、もう持って来てくれたよ。今しがた担当者が来たんだよ」 「ええ?すごい早いね。じゃあ、ランチの後で行くよ」 「颯太、ごめんね。来たばっかりだけど、ご飯に行こうか?」 「うん、先に病院に行っても良いよ。 あそこでもご飯を食べられるでしょう?」 「あ、そうだった」 山川先生に渡したファイルケースから、 戸籍と印鑑証明を3枚ずつ出した。 そして病院に行くことを父に伝えた。 あ、秘書にも言わないと。 「颯太、ごめんね。今度こそ病院に行くよ」 なんとも落ち着かないドタバタだった。 あとどれくらい続くんだ? 病院に行くと、理事室に淳一と楓がいた。 「はーい!颯太、元気?」 楓とハイタッチをしていた。 「ほら、お前たちのために寿司を取っておいたぞ」 颯太と顔を見合わせて、にんまりした。 「父さん、すみません。なんかバタバタなんだよね」 「そうだろう。簡単にはいかないさ。 まあ、3カ月もすれば落ち着くよ」 「ほら、お前の白衣とスクラブに、IDカードとデスクプレートだ」 「え?もう?」 「そうさ。どうせこうなると思ってたよ。 だからとっくに前から用意してたのさ」 「お義父さん、本当にありがとうございます」 颯太がそう言って、泣き出してしまった……。 もう~、颯太を抱きしめた。 でも俺もなんだか滲んできた。

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