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第98話 ハート舞う

食事が終わって、コーヒーをお出しした。 母と楓がサービスをしてくれる。 「紀子さんから頂いたチーズケーキです。 あと、立花家の皆さんからも焼き菓子をたくさん頂戴しました。ありがとうございます」 淳一が真っ先にチーズケーキを口に運んだ。 「うわっ、これ旨い!」 思わず叫んでいた。 颯太も「ノリちゃんのチーズケーキ、おいしいよ」と褒めていた。 楓も食べて、 「本当だ…すんごく美味しいわ〜。何のチーズなんだろう?」 と目を丸くする。 家政婦さん達も驚いていた。 「これはすごく美味しいですね。本当に何のチーズをお使いなんですか?」 「はい、これは父がフランスのイズニー社から直接取り寄せたAOPクリームチーズです。それに伊豆産のミカンのはちみつを少し入れました」 一瞬、沈黙が落ちた。(笑) 「あいた〜、買えないわ」 楓が言うと、みんなが笑った。 「よろしければ今度お持ちしますよ。父が贈答用にまとめて取り寄せるんです」 「へえ〜そうなんだ。じゃあ、また食べられるのかな?」 淳一が紀子さんに聞いている。 決まってんじゃん! と俺は言えないが──エへへへ。 「はい、よろしければお作りします。立花家の皆さんにも今度お分けしますね」 「ありがとうございます」 皆が喜んでいた。 「あ、それから両親から預かったものがあるんですよ」 紀子さんが紙袋から何やら取り出した。 「こちらは男性の皆様の分です」 白い箱を開けると、名刺入れのようなものが三色ほど、全部で六個。 「こちらは立花家の女性の皆さんに、です」 もう一つの箱には、小銭入れが色違いで四個。 可愛いのに上品だ。 「うわ〜、私たちまでいただいてよろしいんですか?」 「はい、どうぞお使いください」 「ありがとうございます」 「あと、お母様と楓さんにポシェットです」 箱を開けると、シルバーとゴールドの素敵なポシェットが入っていた。 「うわ〜、いいんですか??」 楓が興奮している。 「素敵ねえ〜」 母も手に取って大喜びだ。 やっぱり女はバッグに弱いんだな。 颯太で良かった。 「はい、今日お持ちしたものは全部兄が作ったものです。 “ポシェットはゴールドがお母さまに、シルバーはきっと楓さんに似合うと思う”と言っておりました」 「ええ? 私のために作ってくださったんですか??」 楓は口を開けたまま笑いが止まらない。 もうすっかり目がハートになってるじゃないか。 ハートぶち抜きだな。何がシャイだよ。ははっ。 その後は、有頂天の楓と家政婦さん達でチーズケーキの作り方が盛り上がっていた。 淳一だけは別世界のように紀子さんばかり見ている。 明らかに見惚れてるな。 少しは話せよ。 「紀子さんは颯太のご近所と伺っていますが、学校はどこに行かれたのですか?」 「はい、私は幼稚園からエスカレーターで上がったので、あまり大きな声では言えないのですが、女子高まで続けました。その後は受験をして音大に行きました」 「へえ〜、じゃあ三歳違いで俺の後輩なんだ」 淳一、また喜んでる。 「お兄さんはどちらに行かれたんですか?」 「はい、兄も同じコースで、大学は経済学部です」 「ああ、でもノリちゃんと学校で会ったことないね?」 颯太が聞いた。 「だってそうちゃんは運転手さんが送迎してたもんね。だから帰り道も一緒にならなかったね」 「うん、そうだった。だから遊び相手はノリちゃんだけだったよ」 ここで小林さんが説明してくれた。 「旦那様が、颯太様のお母さまが亡くなって寂しそうだったので、誰か話し相手をしてくれる人はいないかと聞かれたんですよ。 習い事をしたらどうでしょうか? とお話したところ、音楽が良いんじゃないかとなったんです。 するとご近所からいつも聞こえてくる紀子様の上手なピアノがありましてね、普通の大人の先生より遊び相手で来てもらえないだろうかとなったんです。 それで“よいピアノを買えば弾きに来てくれるんじゃないか”とおっしゃいまして、今のベヒシュタインのグランドピアノをお買いになったんですよ。 それで時々、弾いている颯太様をご覧になっていましたよ」 「え? 父が俺のためにピアノを買ってくれたの?」 「そうですよ。ちょうど紀子様が弾きに来てくださったから良かったですね」 「そうだったんですか。うちはベヒシュタインなんて高級なピアノは買えないので、弾くのが本当に楽しみだったんですよ。そうちゃんと弾いたりするのも楽しかったし」 ふと見ると、颯太が泣いていた。 「ちょっとごめんなさい」 颯太を連れて別の部屋に行き、抱きしめた。 しばらく泣き止まなかった。 「颯太、良かったな。ピアノはお父さんのプレゼントだったんだね」 「うん」と頷く。 しばらくして楓が迎えに来た。 「颯太、大丈夫? 皆さんがお帰りになるっておっしゃってるけど」 「うん、わかった。今行くよ」 「颯太、皆さんにご挨拶をしよう。心配してると思うよ」 「はい、行きます」 戻ると、みんな心配そうな表情だった。 颯太は笑顔を見せた。 「颯太は、お父さんのプレゼントにすごく感動したようです」 小林さんが深く頷いていた。 「ではそろそろ失礼いたします。本日は本当にありがとうございました」 玄関前で淳一に聞いた。 「電話番号は交換したのか?」 「バッチリだよ」 抜かりないな。 「では今度、楓を連れてお店の方にもご挨拶に伺いますので、お兄さんにもよろしくお伝えくださいね」 「はい、かしこまりました」 みんなでお見送りをした。

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