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第99話 料理屋さんでお見合い

翌日、俺は決心した。 鉄は熱いうちに打つべきだ。 早速、淳一と楓に「夜、向こうの都合が良ければ食事に行こう」と連絡した。 火曜なら友則さんも紀子さんもOKだそうだ。 楓と淳一には、「火曜はおしゃれをして病院に来いよ」と伝えておいた。 俺たちももちろんスタイリストのコーディネートで準備。 多分、向こうのお兄さんはスーツで来るだろう。 颯太の勉強が終わったら、すぐに病院へ向かった。 今夜は気の利いた料理屋さんでの食事だ。 上川秘書のお墨付きの店で、個室を予約してもらっている。 「先生、俺この格好でいいかな?」 まるで自分がお見合いをするかのような颯太だ。 病院に着くと、まだ患者が終わっていなかった。 診療科の窓口で聞くと、ナースがこっそり教えてくれた。 「先生、今日は普段の倍の速さで終わらせようとしてますよ」 おかげで五時半には終わりそうだという(笑) 楓だけ先導のSPの車に乗ってもらう。 後で紀子さんと友則さんと合流だ。 SPにはすでに話してある。 ただ、「前後に三人ずつ乗るので、いざという時の動きが遅れます」と言われた。 へへへ、無理は承知なんだけどさ。 あっちの店で待ち合わせだから、車を置く場所がないんだよ。 まあ、大きい車だから何とかなる。 どこへ行くにも颯太を連れていけば、もれなくSPと車が付いてくる。 この便利さと安全性からは、もう一生離れられないかもしれない。 癖になってきたのが恐ろしい。 病院で楓たちを待つ間に、花屋で三上さんのお母様への花束を用意してもらった。 お父様にはシャンパン。キザかな? いや、あれだけのプレゼントを頂いて、楓と淳一が一生お世話になるんだから当然だ。 花束はギフトボックスに入れて、リボンをかけてくれた。 持ちやすいし、花が傷む心配もない。 窓が透明で花もよく見える。よし。 これは俺たちの車に積んでおこう。 シャンパンはもう一本、口利きをしてくれた小林さんへのお礼だ。 病院で楓と淳一が言った。 「ね、兄貴。私、この格好でいいかな?」 「俺はどうかな?」 「いいんじゃない?」と言うしかない。 まさか俺たちがスタイリストのコーディネートで来たとは、口が裂けても言えない。 *** 楓たちを乗せて、繁華街のど真ん中にある店の前で車を停めた。 着く直前に莉子さんへ「道路で待っていてほしい」と電話でお願いした。 SPの関係だ。 二台の車が店の前で停まり、二人に乗ってもらった。 料理屋さんはそこから十分もかからない。 へえ〜、初めてだ。さすがに上川秘書。 こんな気の利いた店があるんだ。 というか……ここは料亭か? 京都の旅館の入り口のような、ひっそりとした上品な佇まい。 門の入り口に小さく店の名前が出ているだけ。 中も見えず、まるで秘密めいた入りにくさがある。 ただ一つ違うのは、門の前に駐車場係が二名いて案内してくれることだった。 玄関に入ると、着物姿の案内の人がひざまづいて待っていた。 「いらっしゃいませ。立花様、ようこそお越しくださいました。ご案内いたします。どうぞこちらへ」 今度は別の着物姿の女性が現れ、俺たちを案内してくれた。 くるくると回廊を進み、着いた先は── まさに京都の旅館の高級なお座敷だった。 障子の下の窓からは、ライトアップされた中庭が見える。 楓も淳一も唖然としていた。みんな同じだ。 莉子さんも友則さんも緊張している。 本当にどこに座っていいか分からない。 でも招待客だから、上座に座ってもらった。 ほどなくして、女将さんが挨拶に来られた。 「本日はようこそお越しくださいました。女将でございます。 前会長の立花様には大変ごひいきにしていただいております。 今日はお坊ちゃまの颯太様がお見えと伺って、大変うれしゅうございました。 それに素敵な旦那様にもお会いできました。ご結婚おめでとうございます」 ここで俺が皆を紹介する。 「ありがとうございます。ではご紹介しますね。 こちらが弟と妹で、佐久間総合病院の内科医・佐久間淳一と、耳鼻咽喉科医の楓です。 そしてこちらのお二人がご縁あって、三上紀子さんと友則さんのご兄弟です」 「はい、承知しておりますよ。三上様のお父様には大変ごひいきにしていただいております。 こうしてお嬢様やお坊ちゃまにお会いできるなんて、本当にうれしいことでございます。 本日はどうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。失礼いたします。 ではお料理を運ばせていただきます」 その後ろから、三人ほどの仲居さんが続いて料理を並べていく。 「はあ……」とため息をつくと、みんなでクスクス笑いが起きた。 「あははは、慣れないのでね」 「僕たちもですよ」 友則さんも笑っていた。

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