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第108話 当主妻の自覚
明日から家政婦さんが来てくれるということで、急に元気が出た俺。
楓たちを迎えるために気合を入れて、美味しい吸い物を作った。
贅沢なほど材料を使っただし汁だ。これなら文句はないだろう。
「颯太、食事の後だと疲れるから、お風呂に先に入って」
「それはダメなの」
「なんで?」
「もう先生と入る癖が付いちゃったから」
???
なんと言っていいか……
どんな顔をすればいいのか?
ああ〜もう〜。両手で顔を覆った。
「颯太! こっちおいで!」
「なあに?」
手を引っ張って抱きしめた。
「なんでそんなにかわいいことを言うかなあ?」
ふふふと笑っている。
「まだ時間あるかな? よし、大急ぎで二人で入ろう」
「もうシャワーでいいよ」
颯太を洗ってやり、先に脱衣所に出してやった。
あとは俺が身体を洗った。
間に合ったな。よしよし。
「颯太、みんなが来るまで横になってていいよ」
「うん、じゃあソファに座ってるね」
何やらパソコンを持ってきてパチパチやっていた。
さあ、準備はOK。
あ、颯太の絆創膏の交換!
「颯太、絆創膏を交換しないといけないよ。こっちに来て」
「はーい」
濡れていたので、また消毒して新しい絆創膏を貼った。
よし、完成。
そこへ楓たちがどやどやとやって来た。セーフ。
あ! 颯太はトレーナーのままだ。
チョーカーが丸出しだ!
しかし、遅すぎた。
「ええ? 颯太! 何それ、凄すぎ。兄貴も張り切ったねえ〜」
楓が騒ぐから、全員に見られてしまった。
「へえ〜、ダイヤを付けるのも出来るのか。よし、俺も頼もう」
淳一がもう参考にしている。
「あら見せて、素敵じゃない? へえ〜陽一も颯太のことになると、ほんとにベタ惚れねえ」
母が感心したように言うから、恥ずかしい。
「ふっふっ、いいじゃないか。仲がいいんだよ。結構なことだ」
父がフォローしてくれた。
届いたお寿司を広げた。
「いえ〜い! お寿司だ!」
そこへお吸い物を出した。
具は三つ葉、柚、手毬麩だ。
「わっ、なにこれ? かわいい〜じゃん」
「加賀の手毬麩だよ。楓も覚えておくと喜ばれるよ」
「うん、そうする」
「じゃあ、みんなで乾杯しようか? 今日は俺が音頭を取ります」
淳一が気を利かせた。
みんなでグラスを掲げる。
「兄貴と颯太の番記念に、おめでとう! かんぱーい!」
……急に飲む気が失せた。
全く、無神経な奴だ。
結婚生活は破綻するな。
「ね、ね、いいもの見せようか?」
楓が珍しくうれしそうにしていた。
「なんだよ?」
「これなんだよ〜♪」
友則さんからのメールを見せびらかした。
<楓さん、すごく可愛かった。ぜひ僕と交際してください>
「え? 楓姉さん、すごいのもらったねえ〜」
颯太が言うから、もう調子に乗ってしまった。
「楓はこれが初恋なんじゃないの?」
俺が振ると、
「うん? 内緒」
と気取っていた。バレてるぞ。
父と母はくすくす笑っていた。
「ようやく我が家にも春がきたのかな?」
と父。
「そうみたいですねえ。でも結婚式が大変そうですよ」
と母。
「あ、そうだ。兄貴! お願いします。このマンションを俺に貸してくれない? でないと結婚できないよ」
ほら来た。
颯太と顔を見合わせて、微妙にくすっと笑った。
「陽一、なんとか考えてやってよ。確かに三上家のお嬢さんを貰うには、それなりの体裁が整う住まいでないと、向こうの顔が立たないと思うよ」
父が言うか。
でもまだ父に全額返済してないんだよな。
「そうねえ。だから、颯太とうちに来ればいいじゃない? 私は毎日颯太の顔を見たいわよ」
母が言うと、颯太はにこにこしている。
母もね、こういう時はうまいんだよ。
「ねえ、私はどうなるの?」
楓の不満が出た。
「お前は三上家の長男に嫁ぐんだ。さぞや立派な豪邸なんじゃないの? 陽一、どうだった?」
「うん、颯太の実家ほどではないけど、相当すごい豪邸だったよ。門から車が三台入ってもびくともしないし、奥の方に立派なガレージが見えてたよ。それに車寄せが大きかったから、あれは良いんじゃない? 多分、お客さんが多いんだと思うよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。楓どうする?」
母が聞いた。
「だって無理よ。私は毎日病院に行って仕事してるんだから、知らないわよ」
楓。甘いな。
ここで俺が教育してやらないと駄目だ。
「楓、友則さんは長男だから、三上家の当主だよ。いずれ背負って立つんだから、医者の仕事は続ければいいけど、“当主の妻”だということを忘れたらうまくいかないよ」
「はーい!」
返事はいいけど、やや不貞腐れた。(笑)
楓も苦労知らずのお嬢で間違いない。
それにしても自覚ゼロだな。
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