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第109話 第7事案件・発令

翌日、二人で会長室に行くと、空気が変わっていた。 「なんだろう?」と、颯太でさえ気づいた。 上川秘書に電話すると、 「今、第1会議室にいて手が離せないので、一人で来てほしい」 と言われた。 ははー、なるほど。 颯太に内緒なんだな。 「颯太、なんか俺にお客さんが来てるそうだから、ちょっと行ってくるね。ここで待ってて」 「うん。いいよ」 第1会議室に入ると、社長や重役たちがずらりと揃っていた。 理由はひとつしかない。 上川秘書がそばに来た。 「先生、お察しの通りです。前会長がご危篤の一報が入りました。 “第7事案件”というのはミツワの暗号で、TOPが危ないという意味です。 おそらく数時間後には訃報が入ると思われます。 これから各部署やグループ会社のTOPに順次連絡が入り、準備に入ります。 一番心配なのは株価の問題です。 そして颯太名誉会長。どうぞそばにいて差し上げてください。 再婚された奥様宅には、すでに執事の小林さんが向かいました。 しばらく付きっきりでフォローしてくださると思います。 では今後の流れをご説明します。 恐らく亡くなられたら、すぐアメリカで荼毘に付されます。 明日の水曜日には成田に御遺骨が到着します。 お迎えには三浦社長、他重役が向かいます。 そのまま菩提寺へ安置されます。 木曜日には奥様とお子様方がお参りされます。 時間差をつけてご案内しますので、その後に颯太様と院長先生がお参りください。 終わられましたら、そのままお帰りください。 翌金曜の午前、社葬が行われます。 お席は離しますが、一番前には奥様とお子様方、そして院長先生と颯太様。 並びに佐久間家のご家族の皆様にお掛けいただきます。 社葬が終われば、そのままお帰りください。 奥様方もすぐにお送りする手はずになっております。 なるべく接触がないようにいたします。 翌土曜日には、ミツワ会議室にて山川弁護士による遺言開示がございます。 時間は追ってご案内します。 以上です。 颯太様のこと、どうぞよろしくお願いいたします」 「はい、承知しました。ご苦労様です」 そう言うしかなかった。 立て板に水とはこのことだ。 もうとっくに準備は整っていたのだろう。 企業というのはすごい。 今までの流れを見ていると、恐らくアメリカに向かう段階で、すでに整えられていたんだろうと思った。 うちの病院なんて、株価も暗号もない。 はあ……颯太……精神的にもろいからな。 どうしよう。父には言ったほうがいいが、訃報が出てからでも遅くはない。 でも金曜は社葬だ。用事があるかもしれない。 空いている会議室から父に電話した。 「お、どうしたんだ?」 すぐに言えなかった。 「そうか、そうなんだな?」 「らしいんだ。まだ正式じゃないけど、数時間後らしい。 ミツワは暗号で慌ただしく動いてる。本番は金曜の午前らしいから、今から皆の都合を調整してくれない? 佐久間家全員出席しないといけないみたいで、最前列の席なんだって」 「うん、分かった。任せとけ。またあとで連絡しろよ」 「うん、頼むね」 電話してよかった。 病院は予約制だから、キャンセルも大変だ。 そうだ、颯太は喪服を持ってたかな……? よく見ていない。急いで家に帰りたい気分だ。 まさか、ないってことはないだろう。 でも俺の喪服も出しておかないと。 カビが生えてたらどうしよう。あり得る。 まずは颯太の昼食をしっかり食べさせておこう。 腹持ちのいいものがいい。肉料理か。 ハンバーグでもいい。 隣のホテルに行って食べさせよう。

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