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第111話 菩提寺にて

 半旗を見て以来、颯太はずっと泣き続けていた。 はあ……でも帰らないわけにはいかない。 「颯太、家に帰ろう。みんながちゃんとやってくれるからね」 しゃくり上げながらも頷いた。 また車いすに座らせ、そのままSPに守られて帰宅した。 一応、帰宅したことは父にメールした。 「颯太をトイレに行かせてから、着替えさせた」 そしてまた寝かせた。 「颯太、お水を持ってくるからね」 ついでに颯太の部屋の喪服を探した。 ……ない。やっぱりないか。 いつ買いに行こうかと考えながら、自分のスーツをしまおうとクローゼットを開けると── え? 大きなメモが付いた喪服がかかっていた。 小林さんからだ。 <颯太様の喪服を家政婦に持って行くように頼みました。 あとはよろしくお願いします> そうだ、忘れていた。今日から家政婦が午前に来てくれているんだ。 風呂場を見ると、水滴ひとつないほど磨かれていた。 冷蔵庫には、メモ付きの料理がいくつも並んでいる。 なんてありがたいんだ。 助かった。 次は俺の喪服だ。 クローゼットの奥から出してカバーを外す。 カビは……生えていない。 ああ、よかった。 黒の腕章、ネクタイ、白いハンカチ、黒の靴下、数珠。 全部揃えた。 あ、颯太の数珠は? 喪服のポケットを探すと、ちゃんと入っていた。 胸ポケットには白いハンカチ。 黒いネクタイも腕章も揃っている。 完璧だ。 家政婦がいるって、こんなに心強いんだな。 颯太の実家に電話して、お礼を伝えた。 「颯太様はどうされていますか? みんな心配しています」 「今はベッドの中で泣いています。料理をたくさんありがとうございました。本当に助かりました」 「今週の金曜は行けませんが、代わりに土曜日の午前に伺います」 ありがたい。 水差しとコップを用意して寝室へ。 あ、目薬もいるな。タオルも。 整えてから、一緒にベッドに入った。 颯太がすぐ抱きついてきた。 ただ抱きしめた。 この日は、泣き止んだかと思うと、また思い出したように泣いた。 鎮静をかけようか……。 どうせ明日はどこにも行かない。 泣くだけでも体力を消耗する。寝る前にしよう。 夜になって、 「颯太、身体が心配だから、ちょっと注射するね」 呆然としたまま、おとなしく注射させてくれた。 そしてすぐ眠りについた。 本当にほっとした。 父にメールした。 「今は鎮静をかけて眠ったところ。明日の予定はなし。 あさっては菩提寺に行く予定で、身内だけらしい」 それから自分の喪服をもう一度確認した。 思わぬところにカビがあったら困る。 でも大丈夫そうだ。 湯を溜めて、一人で浸かった。 なんだか気が重い。 ぼーっとしていた。 風呂から出て、家政婦の料理を温めた。 ありがたい。 これを自分で作ろうとしたら、どれだけ時間がかかるんだ。 なんだか励まされた気がして、夕飯を食べた。 颯太は朝まで起きない。 でも念のため、おかゆを作っておいた。 翌日も、颯太はベッドに入ったまま過ごした。 *** 木曜日。 上川秘書から前日にメールが来ていた。 喪服を着て車に乗れば、菩提寺まで案内してくれるという。 指定の時間に二人で車に乗った。 お寺は大きなところだった。 本堂の横の別室に、盛り花と共に写真と遺骨が安置されていた。 寺のスタッフが案内してくれた。 ご住職が俺たちを見ると、 「少しお経をあげましょうか」 と言ってくれた。 颯太は遺骨を見た瞬間、また泣き崩れた。 肩を抱いたまま、お経を聞いた。 そしてお線香をあげた。 お経が終わると、深くお辞儀をして、 社員の案内で駐車場へ向かい、寺を後にした。 車の中では泣き止んでいたが、 本当に寂しそうな顔をしていた。 俺はただ、颯太の手をぎゅっと握っていた。

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