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第112話 社葬
金曜日になった。
今日は午前10時から帝国大ホテルで社葬がある。
ミツワ規模だと参列者は1000人を超えるらしく、ここがふさわしいのだそうだ。
山川第一秘書が忙しいのも当然だ。
会場には本当に多くの人々が集まっていた。
グループ会社が多いから、こういう大規模な形になるらしい。
養子とはいえ、俺も立花の息子になるから、最前列の中央、颯太の隣に座っている。
右側には、例の再婚妻と女の子二人。
前回は颯太を罵倒した再婚妻だが、今日は大勢の目があるためか、さすがに大人しい。
しかし、時々颯太を睨んでいる視線に気が付いた。
横には執事の小林さんがぴったり張り付いている。
さすがにここで颯太に危害を加えることはないだろう。
問題は明日だ。想像するだけで恐ろしい。
颯太を傷つけることは絶対許さない。
俺の家族が左側に座ってくれていて、それだけで心強かった。
五人の僧侶が一斉に読経を始める。
焼香台だけで長テーブルが十台ほど横並びにされている。
颯太は気丈にしていたが、時折涙がこぼれるので、俺は片手を握っていた。
時々ぎゅと握り締めてくることがある。
そしたら、颯太を見つめて俺も握り返すよ。
火曜から木曜の夜まで、寝る前に鎮静剤を打っていたから睡眠は取れている。
それが何よりの安心材料だった。
家族の焼香になり、再婚妻が最初に焼香をあげた。
次が颯太、その次が再婚妻の子供たち、長女、次女と続き、最後が俺だ。
家族・親族はそれで終わりらしい。
他の親族はいないようだ。
颯太の父にも頼れる親族がいなかったから、会社にプロ中のプロを配置したのだろう。
企業家として、本当に立派な最期だったと思う。
焼香が終わると、左右の通路に案内され、そのまま退出する流れになっていた。
これだけ大勢が集まっているのだから、当然の動線だ。
上川秘書に教えられた通り、俺たちは焼香を終えると案内されて、SPの待つ車に戻り会場を後にした。
俺の家族とはアイコンタクトで頷いただけで、言葉を交わさずに別れた。
金曜の午前に病院を休んで来てくれたのだから、本当に申し訳ない。
しかし、最後の山場は明日の遺言開示だ。
今から緊張する。あの再婚妻がどう出るかが問題だ。
帰宅して、まず父に電話で礼を伝えた。
明日の遺言開示があることも話した。
「頑張れよ」と父が言ってくれたことで、少し気が抜けた。
お腹がふっと揺れた。頑張りようがないのだけれど、
“颯太を守れ”という意味なのだと思う。
帰宅すると、颯太はまたベッドに横になりすぐ目を閉じた。
食べられないから、起きている力がないのだ。
食欲がないので、今日は点滴にした。
今日のためにジャガイモのポタージュだけは作っておいたから、あとで食べさせよう。
そうだ、明日の朝は家政婦さんが来てくれる。
冷蔵庫のドアに、颯太用のポタージュを作っておいてほしいとメモを貼った。
ついでに、俺の希望で具沢山の汁物もお願いした。
「あとですいとんにするつもり」と書いたけれど、
さてどうなっているだろう?
少し楽しみだな。
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