4 / 55
第4話「僕は目を閉じて抱かれる」
【12月26日金曜日19:00】
顔も分からぬ見知らぬ男に抱かれている間、僕はいつも目を閉じている。
胸を撫でる手を……、首を滑る舌を……、想像の中で、先生のものへと変換していた。
僕が愛したことのあるたった一人の人。
高校二年生のときの国語の教師。
僕より8歳年上の、チャコールグレーのカーディガンが似合う地味な男。
実際、先生とは10年前に、たった一度キスをしただけの関係。
こんな風に、身体の隅々まで触ってもらったことなど、もちろんない。
僕のせいなのか、何者かに連れ去られ、先生は突然学校を辞めてしまった。
今現在どこで何をしているのか、全く分からない。
知るすべもない。
先生は、おそらく僕の地元である地方都市を離れ、どこかに移り住んだのだろう。
その後の噂を聞くことすらなかったから。
顔だって、声だって、悲しいことに記憶はどんどん薄れてゆく……。
それでも僕は妄想力を膨らませ、カラスにされることの全てを、先生からの行為だと置き換える。
そうやって、この副業に楽しみを見い出していた。
—
そんな中、過去に一度だけ、先生を妄想する必要がない程、僕を夢中にしてくれたカラスがいた。
あのカラスに抱かれたのは、まだ暑い9月のことだった。
もし、またその人とマッチングされたのなら、昂ぶる気持ちと、特徴ある香りで気づけるはずだ。
ウッディで深い森のような、特徴ある匂いを纏っていたから。
今夜も、心のどこかで「あの人だったらいいのに」と願っている。
でも、違った。
ハズレだ……。
だから今宵も僕は、先生を思い浮かべ妄想に浸る。
「あっ、ねぇ、もっと、もっと、奥まで……んぁ」
僕の頭の中の先生は、柔らかい雰囲気から獰猛な雄に変身を遂げた。
僕にのしかかり、欲望が丸出しになって、色気が放出されている。
それと連動し、現実の世界ではカラスが、背中から僕をリズミカルに突き上げていた。
ホテルの真っ白で肌触りのいいシーツに、強くしがみつく僕。
カラスの息遣いが激しくなり、ハッハッと乱れた呼吸が首筋にかかった。
「せ、せんせ……」
声には出さず、心の中でそう叫び、頂点まで昇りつめて、果てる。
達したことで内壁がカラス自身を強く締め付けてしまえば、彼も小さくうめき、僕の中で果てた。
頭の中で違う男を思い浮かべていた僕を、カラスは背後からギュッと抱きしめてくれる。
そして、「とてもよかった」とでも言うように、労うような優しいキスを落としてくれた。
—
どのカラスも皆、例外なく文鳥にやさしい。
それは文鳥をする者は「愛を失った状態である」ということが、大前提だから。
文鳥は愛を知ったら、鳥籠を卒業しなければならない。
つまり文鳥でいるということは、今なお寂しいということだ。
カラスたちは、文鳥のことを可哀想な生き物だと思っているのだろう。
だからこそ、慈しんで仮初めの愛を惜しみなく注いでくれる。
そして、自分がベッドを共にした文鳥が、いつの日か愛を知り鳥籠を卒業できるように、自由に羽ばたく日がくるように、紳士たちは願っているのだ。
ともだちにシェアしよう!

