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第5話「僕の忘れられない一夜の記憶」

【12月26日金曜日22:00】 身体の奥がいつまでも気持ちよく、僕は裸のままベッドで微睡む。 忙しいカラスは僕を部屋に残し、いつの間にか帰ったようだ。 暗い部屋で目を覚ました僕は、部屋のカーテンを開ける。 カーテンを閉めて行為に及んだのがもったいないと思えるほど、都心の夜景は綺麗だった。 空腹を感じ、最上階のバーへ行くことにした。 バーにも、曲げ木加工がエレガントなカフェチェアが置かれている。 いくらサンドイッチが高価でも、それだけの価値を感じられるのだ。 選び抜かれた椅子に座って眺める夜景は、無職になった日の自分への慰めに、ちょうどいい。 運良く、大きな窓ガラスと向き合うように置かれた椅子が空いている。 僕は気分良く、ウェイターにサンドイッチとシャンパンを注文した。 — あと5日で、今年も終わる。 来年から本当にフリーの職人としてやっていくのか。 それは、可能なことなのか。 考えなければいけないことは、多々あった。 けれど、頭の中には、9月に僕を抱いたカラスのことが蘇る。 場所は、フェイジョアではなく、この近くのクラシックなホテルだった。 後腐れのない関係であるはずのカラスと文鳥。 でも、あの夜のことだけは、どうしても忘れられない……。 あのカラスに触れた瞬間、いつもとは違うなにかを感じた。 懐かしいような、切ないような、胸を締め付けられるような昂りを……。 それは上手く言葉にすることができない感情だったが、自分の身体に起きた変化は顕著だった。 キスされるだけで、欲望が高まり、堪らなくその男が欲しくなった。 目を閉じる必要もなく、彼が与えてくれる快楽に、僕は激しく乱れる。 「あっ、いい、すごく、いい、いい」 喘いで、喘いで、声が擦れて。 いつもなら我慢できるのに、頭に思い浮かんでいる人のことを、小さな声で呼んでしまう。 「いかせて、せんせっ」 彼が腰を使うスピードを上げ、僕の中で果てた。 同時に達した僕は、心の許容範囲を超えるほど満たされてしまい、意図せず涙を溢れさせる。 カラスは僕の頬を撫で、涙で濡れていることに気がつくと、キスで優しく舐めとってくれた。 「キヨ……」 まるで先生が僕を呼ぶときのように、僕の名前など知るはずのないカラスが、そう呟いた。 いや……。 囁くような声だったから、聞き違えたのだと思う。 それでも、そんな幻聴に幸せを感じ、僕は短い時間、眠りに落ちてしまう。 目が覚めたとき、隣にはまだカラスがいて、彼も規則正しい呼吸で眠っていた。 あの時の暖かさ、嬉しさは忘れない。 暗闇で出会い暗闇で別れた、顔も知らない人。 あの人と再びマッチングして、もう一度抱かれたい。 あの人が誰なのか、鳥籠のフクロウさんに尋ねてみようと考えたこともある。 けれど、守秘義務があるから教えてはくれないはずだ。 下手に興味を示し、今後彼とマッチングしてもらえなくなるのは、得策ではない。 だから、大人しく次の機会を待っていた。 — そんなことを思い出しながら、僕はシャンパンを飲み干す。 サンドイッチも食べ終わって、3028号室の部屋に戻ったけれど、すぐには眠れそうもない……。 正月だからと帰省する実家もない。 一人ぼっちの年末年始。 この寂しい気持ちは、どうしたら消えてくれるだろう。

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