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SSその1「フェイジョア・ウッドチェア・アワード」
《フェイジョアホテルオーナー》
年に一度開催されるフェイジョアホテル主催の椅子コンペ『フェイジョア・ウッドチェア・アワード』
審査員は、オーナーである私、このホテル専属のデザイナー、建築家、華道家、料理長など。
各部門のプロフェッショナルたちが務めている。
審査員は並べられた椅子に、一票ずつ投票していく。
公平を期するため、応募してきたデザイナーの名前や、所属しているメーカーなどは伏せて審査する決まりだ。
今年度は満場一致で大賞作品が決まった。
私も一票を投じたその作品は、昨年の大賞を上回る素晴らしい出来だった。
なにより、削りだされた背もたれの曲線が秀逸で、もちろん座り心地も大変良い。
別荘の暖炉前に置いて、読書するときに使いたいとまで、瞬時に考えた。
皆を代表し、私がその作品の職人の名を確認する。
伏せてあったカードに手を伸ばすと、意図せず指先が震えてしまった。
それを隠すためにも、勢いよく裏返す。
「カラテア工房・唐津ツヨシ」
違った……。
彼の名前ではなかった。
この素晴らしい椅子こそ、彼の作品だと思ったのに……。
この工房は、確か昨年も上位に食い込んできた。
骨太で、重厚感があり鑑賞に値するキングチェア。
ただし、形は素晴らしいのに、明らかに蛇足な装飾を加えた椅子で、残念に思った記憶がある。
—
彼は、念願の木製椅子の職人には、ならなかったのだろうか。
それとも、まだどこかで回り道をしているだけだろうか。
以前、彼の実家周りを少し探らせてもらった。
組織に彼の気配はなかったから、おそらく実家とは縁を切り、苗字も変わっていると予想する。
いつか彼の作品を見つけるまで、私はこのコンペを開催し続けるだろう……。
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