6 / 55

SSその1「フェイジョア・ウッドチェア・アワード」

《フェイジョアホテルオーナー》 年に一度開催されるフェイジョアホテル主催の椅子コンペ『フェイジョア・ウッドチェア・アワード』 審査員は、オーナーである私、このホテル専属のデザイナー、建築家、華道家、料理長など。 各部門のプロフェッショナルたちが務めている。 審査員は並べられた椅子に、一票ずつ投票していく。 公平を期するため、応募してきたデザイナーの名前や、所属しているメーカーなどは伏せて審査する決まりだ。 今年度は満場一致で大賞作品が決まった。 私も一票を投じたその作品は、昨年の大賞を上回る素晴らしい出来だった。 なにより、削りだされた背もたれの曲線が秀逸で、もちろん座り心地も大変良い。 別荘の暖炉前に置いて、読書するときに使いたいとまで、瞬時に考えた。 皆を代表し、私がその作品の職人の名を確認する。 伏せてあったカードに手を伸ばすと、意図せず指先が震えてしまった。 それを隠すためにも、勢いよく裏返す。 「カラテア工房・唐津ツヨシ」 違った……。 彼の名前ではなかった。 この素晴らしい椅子こそ、彼の作品だと思ったのに……。 この工房は、確か昨年も上位に食い込んできた。 骨太で、重厚感があり鑑賞に値するキングチェア。 ただし、形は素晴らしいのに、明らかに蛇足な装飾を加えた椅子で、残念に思った記憶がある。 — 彼は、念願の木製椅子の職人には、ならなかったのだろうか。 それとも、まだどこかで回り道をしているだけだろうか。 以前、彼の実家周りを少し探らせてもらった。 組織に彼の気配はなかったから、おそらく実家とは縁を切り、苗字も変わっていると予想する。 いつか彼の作品を見つけるまで、私はこのコンペを開催し続けるだろう……。

ともだちにシェアしよう!