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第7話「僕を気にかけてくれる人」
【12月27日土曜日12:00】
「やぁ、キヨチカ坊ちゃん。昨晩も鳥籠ですか?ご精が出ますね」
「岩山、どうして僕がフェイジョアホテルにいるって、分かったんだよ。いつからつけてた?」
「つけてただなんて、人聞きが悪い。たまたまですよ」
「たまたま?」
「えぇ、さっきロビーでお見かけして。声をかけようとしたら、急に足早に立ち去るから、どうしたんだろうって心配になったんです」
目の前にいる男「岩山」は、強面で、洒落たデザインの黒いロングコートを羽織っている。
年齢は僕よりも20歳上のはずだ。
「岩山、僕、腹が減った。中華がいいな」
「はいはい。承知しましたよ。近くにいい店がありますから、ご一緒しましょう」
岩山はすぐにスマホを取り出し、店に電話を入れている。
「肩がこるような店は嫌だよ」
そう付け加えたのに、連れていかれたのはビルの地下にある、高級中華料理店の個室だった。
—
岩山は、平たく言えば父親の部下だ。
僕が生まれた年に組に入ってきたらしい。
赤ん坊だった僕の遊び相手を任され、随分と世話をしてくれたと聞いている。
僕が彼の背中に跨り、お馬さんごっこをしている写真を見せられたこともあった。
今は、組の中でそれなりの地位にいるはずだ。
僕が父と縁を切った今でも、意図的なのか偶然なのか、ときどき現れては気遣ってくれる。
僕が高校を卒業し地元を出たとき、彼も東京にマンションを買ったらしい。
「鳥籠」を紹介してくれたのだって、岩山だ。
先生との突然の別れを引きずり、荒んでいた大学生の頃。
僕は、その夜の相手を求めて、怪しげなバーに頻繁に出入りしていた。
酷い相手に当たったことも多々ある。
行為中に殴られたり、縛られたり、出血させられたり。
「一夜の相手が欲しいなら、確かな組織に属するべきです」
そう言って岩山は、フクロウさんの電話番号が書かれた名刺を一枚、僕にくれた。
もしあのとき、鳥籠を紹介してもらっていなかったら……。
今頃僕はどこかで、薬でも打たれて死んでいたかもしれない。
そしたら、フェイジョアのコンペで大賞を受賞できるような椅子は、生み出せなかっただろう。
それに父だって。
組長の息子が東京でそんな死に方をしたら、面目が立たず立場を危うくしたかもしれない……。
—
岩山が連れてきてくれた店の、フカヒレあんかけチャーハンは絶品だった。
「めっちゃ美味しいよ、岩山!」
「それはよかったです。ところで、坊ちゃん。仕事をお辞めになったそうで」
「相変わらず耳が早いなー。どこで情報得てるんだよ」
彼は情報源については、穏やかに笑ってごまかした。
「組に戻るなら、私から組長に話を通しますよ」
「そんなわけあるかよ」
「ま、そうですね。分かってます。言ってみただけです」
無一文になったとしても、ヤクザをしている実家になど戻りたくない。
「それよりさ、岩山はフェイジョアホテルのオーナーって見たことある?」
「オーナー」という言葉に岩山の顔が一瞬曇った。
箸でつまんでいた小籠包を、酢醤油の中にポチャンと落とすほどだ。
「失礼」
彼は即座にいつもの穏やかな顔に戻って、小籠包を箸でつまみ直し、首を振った。
「いいえ、全く存じません」
「そっか」
「そのオーナーがどうかしたのですか?」
「いや、別に」
たったそれだけの会話が、どうしてギクシャクとした空気を生んだのか、僕には分からなかった。
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