9 / 55
第8話「僕に執着するカラスの存在」
【12月27日土曜日16:00】
東京駅からオレンジ色の電車に乗る。
30分ほど乗って、東京都三鷹市にある元職場「カラテア工房」から二駅手前にある駅で降りた。
一人で暮らすマンションは、この駅から徒歩10分の距離にある。
自宅に戻ってきたところで、特にやることはなかった。
洗濯を「洗濯乾燥」コースで回し、紅茶を淹れ、部屋を軽くモップ掛けすれば、もう暇になる。
そもそも僕は、幼い頃から休みというものが苦手だ。
だからこそ今は、鳥籠での副業があることが救いになっている。
ソファで寝そべっていると、突然、テーブルに置いていたスマホが振動した。
フクロウさんからの着信だ。
彼のほうから、折り返しでもない電話を掛けてくるなんて、とても珍しい。
「もしもし」
『フクロウでございます。お休みのところお電話差し上げて、申し訳ございません』
「いえいえ、大丈夫です。どうかしましたか?」
どんな用件なのか、少しも予測できない。
『実は、キヨチカ様のことを探しているカラスがいるのです』
「僕を?」
『詳しいことは申し上げられませんが、以前一度だけキヨチカ様とマッチングした方が、個人的に連絡を取りたいと何度もおっしゃっていて』
「でも、鳥籠はそういうの禁止してるんでしょ?」
『左様でございます。ですから都度お断りし、キヨチカ様とその方が、再度マッチングすることがないよう、細心の注意を払っております』
鳥籠は、互いの顔を見ないからこそ、相手への幻想が大きく膨らむと、聞いたことがある。
確かに僕だって、9月に抱かれたカラスのことは忘れられないし、想いは膨らみ続けていた。
「それで?」
『カラスが、独自に文鳥の素性を探ることは、とても難しいと思われます』
「だろうね」
『それでも、力がある方だと、あの手この手を使われますから……』
「例えば?」
『カラスが使用する頻度の高い数箇所のホテルを定点観測的に見張り、それらしい男性一人客を見つけるたびに尾行させる、といったことも方法の一つかと』
「随分と効率が悪いね」
『しかしそうまでして、キヨチカ様と個人的に接点を持ちたいとカラスが考えた場合、その執着は恐ろしゅうございます』
面倒な話だ。
何より、僕の紹介者である岩山にその話が伝わったら……。
過保護な彼は、僕に文鳥を辞めさせるかもしれない。
それは困る。
でも、もしも……。
もしも、その僕を探している人が、9月のあの人だったらどんなにいいか。
いや……、何を夢見がちなことを思っているのだろう、僕は。
『年内に注意喚起をお伝えしたくご連絡しました。とにかく不審な人物には、充分にお気をつけください』
「了解。ところでさ、今日も鳥籠に入りたいんだけど」
『承知しました。お時間と場所のご希望はございますか?』
「うーん。19時以降がいいな。ホテルは、ほらあの、フェイジョアホテルの近くにあるクラシックなホテルを希望。今日は抱かれる側限定で」
『では、マッチングしましたら、またご連絡いたします』
—
1時間ほどして、折り返しの電話があった。
今宵の相手は、僕の望み通りクラシックなホテルを指定してきたカラス。
落ち合う時刻は、21時。
それはいつもと何ら変わらない、カラスと文鳥の刹那の逢瀬。
どうせそれ以上でもそれ以下でもないと、期待値を上げず、20時に家を出た……。
ともだちにシェアしよう!

