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SSその2「ラストチャンス」

《深い森の匂いがするあの人》 一人の文鳥への執着を見せてしまった。 すると鳥籠は、私のマッチング相手を慎重に選ぶようになった。 だから一か月前。 今度は私より5歳年上の秘書、長谷川を鳥籠に所属させた。 そして週に一度、文鳥をホテルに呼ぶよう指示している。 長谷川が部屋に文鳥を招き入れたあと、隠れていた私が現れる。 そして、それが9月に抱いたあの文鳥であるかどうかを確かめる、という段取りだ。 長谷川は「暗い部屋の中で、顔も分からず抱いた男を探し出すなど無理だ」と眉間にシワを寄せ、顔を曇らせる。 いや、わかるはずだ。 理由は不明だが、あの9月の文鳥は私にとって、特別だったから。 触れただけで、堪らなく愛おしく感じたのはあの文鳥だけ。 また会えたらきっと同じ気持ちを、味わえるはずなのだ。 — 10年前。 私の家柄や地位の損得ではなく、初めて純粋に好意を寄せてくれる少年に出会った。 しかし、己の無力さで、彼を酷く悲しませる結果に終わった。 その後悔から、誰のことも愛せずにいたが、9月の文鳥を抱いていた間だけは、虚しさを忘れられた。 どうかもう一度、あの文鳥と抱き合いたい……。 そして、どうして彼が私にとって特別なのかを、知りたい。 この一か月、何人かの文鳥を呼んでは、ハズレを引いている。 特別ではない文鳥を抱く気分にはなれない。 口止め料を渡し何もせずに帰しているが、そろそろ鳥籠にバレる頃だ。 「こんな年末に、またですか?」 呆れた秘書はそう言った。 「今夜で最後にするよ。これがラストチャンス。これでダメなら諦めるから……」 21時にやってくる今夜の文鳥。 どうか彼が、私の特別な鳥でありますように。

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