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第11話「僕はスイートルームに」
【12月28日日曜日07:00】
部屋に現れた秘書の長谷川さんは、周囲を警戒することなく、堂々と正面からクラシックなホテルを出る。
「徒歩でフェイジョアホテルに向かいますが、よろしいですか?」
「うん。だけど、僕がここを抜け出して大丈夫なの?あそこで待ってるように言われたんだけど。あの人にも、あの人を連れ去っていった人にも」
「先方とは昨晩、話がついたそうです。ですからどうぞ堂々と、我がホテルへいらしてください」
—
連れて行かれたのは、高層階のフロア。
「すごい部屋!ここはスイートルーム?」
「はい。とはいえ、一般の宿泊用ではなく我がフェイジョアホテルオーナーの自室になります」
過去、何度か文鳥として泊まった部屋より、明らかにグレードが高い。
窓辺にある椅子だって、お気に入りを置いているのだろう。
「座ってみたい」そんな欲を掻き立てられる、いかにもリラックスできそうなイージーチェアだった。
「それで。僕はどうしてここに連れてきてもらったの?」
椅子の肘を撫でながら彼に尋ねる。
「それは、私にもさっぱり……」
「え?そうなの?」
「はい。正直、少々呆れております」
そう言いながら彼は、テーブルに置かれていた封筒を僕に差し出す。
「オーナーから貴方への手紙です。これをお読みになって、私に「はい」か「いいえ」をお伝えください」
「手紙?」
「答えが「はい」だった場合、オーナーが待つ場所をお伝えします。「いいえ」であれば、ご自宅へお帰りいただいて結構です」
受け取った手紙は、まるで国語の先生のような綺麗な字で書かれていた。
—
文鳥の君へ
時間が無いため、簡潔に記します。
私は1年前、ホテルの常連客の紹介で、カラスとして鳥籠メンバーになりました。
文鳥を呼ぶことは、頻繁ではありませんでしたが、私にも堪らなく寂しい夜があります。
そんなときは、他のホテルにて鳥籠の世話になっておりました。
しかし、文鳥を抱いたからといって、寂しさは埋まりません。
あれは9月のことです。
君と出会い、君を抱き、どうしてか私はとても満たされました。
もう一度、君と会いたい。
そう思い、フクロウに掛け合いましたが、警戒されるばかりでした。
色々な手を使い君のことを調べましたが、なかなか辿り着けません。
ここ最近は、秘書と君がマッチングするのを待つ日々でした。
そしてとうとう、また出会うことが叶ったのです。
しかし、まさかあの場に、岩山氏が現れるとは思いもしませんでした。
ただ、彼が現れたことにより、私は全ての意味を理解したのです。
一晩かけて、私は岩山氏と話し合いました。
君は知っていましたか?
鳥籠は、岩山氏が幹部を務める組系列が運営している組織であると。
鳥籠には卒業という制度があるそうですね。
文鳥は愛を知ったら卒業しなければならない。
カラスが文鳥に教えた愛が本物で、愛し合うことができたのであれば、自分の傍に置くことができる。
岩山氏から、私が君を愛するための資格として、5億円が提示されました。
私は即金で5億円を、支払いました。
あとは、君がこの試験を受けることに同意するかどうかです。
「はい」か「いいえ」で答えてください。
岩山氏は、君のことを本当に大切に思っているのでしょう。
あの頃からずっと。
だからこそ、私にチャンスをくれたのです。
キヨ、来てくれるのを待っています。
フェイジョアホテルオーナー 小山内シュウより
—
あまりにも情報が多い手紙だった。
極めつけは最後の名前。
「……シュウ」
僕は震える手で手紙を握りしめ、息をするのも忘れそうだった。
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